性能が落ちる? スポーツカーにエタノール混合ガソリンは使えるか 英国で「E10」普及進む
公開 : 2022.08.26 06:05
英国ではエタノールを一定量含んだガソリン「E10」の普及が進んでいます。スポーツカーや高性能車には使えるのか。従来の燃料に比べて性能や燃費はどうか。英国の状況を伝えます。
環境に優しいガソリン クルマへの影響は
英国で「E10」ガソリンの普及が急速に進み、国内のほぼすべてのガソリンスタンドで、E10を給油できるようになった。2021年末、英国政府は従来の「E5」よりもCO2排出量が少ないことを理由に、E10を標準とする方針を発表。約1年で普及をほぼ完了させた。
当初は懸念の声も大きかったが、今のところ大きな問題も見られず、順調に移行が進んでいる。もちろん、まだ初期段階ではあるが、ほとんどのクルマの性能に明らかな違いはないようだ。AUTOCARの兄弟誌What Car?は2014年に、E10はエンジンの効率を約10%低下させる可能性があるものの、パワーとトルクという点では変わらないはずだと報告している。
それもそのはず、パワーとトルクはガソリンのオクタン価(RON)によって決まる。オクタン価が高いほど自己着火しづらく、ノッキング(燃料と空気の早期燃焼によりシリンダー圧力のばらつきが生じ、性能が低下すること)に強いため、高度にチューニングされたエンジンでは本来の性能を発揮することができる。
だが、英国では、オクタン価97~100のハイオクガソリンは現在もエタノール混合率が5%(E5)である。つまり、ハイオクを使うようなスポーツカーや高性能車でE10に切り換えると、混合率が倍増することになる。しかし、日本と同様に英国でも燃料価格が高騰しており、スポーツカーや高性能車のオーナーの多くは、目減りしていく預金残高を見ながら、比較的安価なE10への切り替えを行うべきかどうか悩んでいるという。
そもそもE10燃料とは何か?
まず初めに、E10燃料がどのようなものかを改めて見てみよう。基本的には、従来の無鉛ガソリンを90%、エタノールを10%混合したものだ(これがE10という名称の由来)。エタノールは、トウモロコシ、大麦、サトウキビなどの持続可能な資源から生成される、いわゆるバイオエタノール。
このような化石燃料とバイオマスの組み合わせは、何も新しいものではない。以前のE5はエタノール混合率5%のガソリン、B7は混合率7%の軽油だ。
燃料に含まれるエタノールの比率を高めることで、温室効果ガスの排出を抑えることができるという理屈である。英国政府は、エタノールの普及によってCO2排出量を2%削減できると試算している。これは大した量に思えないかもしれないが、英国がネット・ゼロ・カーボンの未来に向かって進む中、少しでも助けになるだろう。
ちなみに、日本ではE3の導入が2007年から始まり、E10の使用も認められている。順調に普及が進んでいるとは言い難い状況だが、少なくとも国産車に関しては、2011年以降に販売された新車はすべてE10への対応が義務付けられている。
世界的に見ても、過去20年ほどの間に製造されたほとんどの自動車は、E10で走ることができる。実際、RAC(英国王立自動車クラブ)は英国内を走る約3000万台のうち、E10を使うことができないのは63万4000台強と推定している。さらにこのうち、2000年以降に製造されたものは15万台に過ぎない。つまり、ほとんどがクラシックカーやビンテージカーということになる。
こうした古いクルマでは、エタノールの含有量が増えると、長期的に問題が発生する可能性が高いと専門家は警鐘を鳴らす。最も多いトラブルは、燃料フィルターの詰まり、燃料ポンプの損傷、燃料パイプの急速な劣化、キャブレターの腐食など。そのため、英国政府は旧車オーナーへの措置として、高価ではあるがエタノール混合率の少ないE5を引き続き提供するとしている。
余談だが、クラシックカーの専門家の中には、古いクルマ(特に1920年代と1930年代のモデル)のエンジンは、E10の方が動きが良くなると信じている人もいる。これには、当時、ミスファイヤーの少ないスムーズな走行を実現するため、一部のブランドでエタノール含有量が多いガソリンを使用していたという背景がある。