スピードの出し過ぎを抑制 自動速度制御装置「ISA」について知っておくべきこと

公開 : 2022.09.07 06:05

ドライバーからは嫌われる存在?

ISAがいつの日か解除できなくなる可能性があるということは、近い将来クルマの運転を楽しむことができなくなるのではないか。クルマや運転が好きな人は、そのような心配を抱くかもしれない。

欧州委員会は、ISAが作動していないとドライバーの注意力が低下し、低速ゾーンに入るときに減速することを忘れ、高速ゾーンに入るときに加速することを忘れるという研究結果を発表している。

AUTOCAR英国編集部のテストでは、制限速度がころころ変わる地域において特に有効性を示した。
AUTOCAR英国編集部のテストでは、制限速度がころころ変わる地域において特に有効性を示した。

同時に、ISAシステム全般が抱える課題についても正直に述べている。例えば、ISAを使用する際、ドライバーが過信してリアルタイムの道路状況を無視したり、ISAが作動しない道路で普段以上にスピードを出そうとしたりすることがある、といった調査結果も認めている。ドライバーをはじめ、周囲の車両にストレスを与える可能性もある。

また、速度制限装置を「非常に役に立つ」と考えるドライバーは25%に過ぎないという調査結果も明らかにされている。しかし、この調査では、速度制限装置を体験した後、多くのドライバーは導入を受け入れるようになったという結果が出ている。

英国編集部のテスターも、速度制限装置を受容するようになった。街中では特に、前方や周囲の状況に気を配りやすくなるため、有効なシステムと言える。一旦使い始めると、やがて習慣となり、ISAの介入が当たり前になる。これは安心感につながる一方で、習慣を断ち切るのは難しい。

もしEUがISAを任意に解除できないようにするのなら、まずドライバーの遵法精神や、ISAの事故削減への貢献度を見直すことを期待する。

英国記者が考える「アフターISA」の楽しみ方

近い将来、ISAの導入が予想される英国のAUTOCAR記者は、「アフターISA」についてどう考えているのか。彼らの意見を聞いてみた。

リチャード・レーン

「もし運転の楽しさが、クルマとの会話(コミュニケーション)にあるとしたら、すでに気になるところがたくさんあるはずです。最近の高性能車の多くは、会話が弾む前に制限速度に達してしまいますし、本当に親しくなるためには法を破るリスクを冒すことになります」

英国記者からは、クラシックカーやバイクでゆっくり運転を楽しみたいという声が聞こえてきた。
英国記者からは、クラシックカーやバイクでゆっくり運転を楽しみたいという声が聞こえてきた。

「だから、ISAが普及する未来では、わたしはモダン・クラシックを買いたい。RSメガーヌ275とか、997世代のポルシェ911カレラとか。あるいは、アルピーヌA110を買って、ずっと持っていたいですね」

マット・プライヤー

「これからは、ゆっくり走ることに楽しみを見いださなければなりません。それは悪いことではありません。率直に言って、僕達は今、そうすべきなのです。だから僕は、古くて奇妙なクルマ、時にはバイクに乗って、モータースポーツを楽しんでいこうと思うんです。制約の少ないバイクと古いクルマを何台か所有することになるでしょう」

「特殊なクルマやバイクを自分で作ってみたいという漠然とした計画もありますよ。今の夢は、ホンダの芝刈り機/カート用エンジンGX160から、最高出力75psくらいの空冷2.0L V12を作ること。僕は物置の中で、徐々にひげを生やした老人になっていくと思いますが、それもそれでいいですよね」

アンドリュー・フランケル

「ISAシステムが導入されたら、わたしはどのようにレクリエーション・ドライブを楽しむのだろうか?今と同じように、崖から突き落としても制限速度に達しないような、古くて遅い小型車を運転することになるでしょうね。最近では、復活祭のとき、友人と2人で1950年代のシトロエン2CVに乗り、記憶にある限り最も楽しいドライブを体験しました。彼もわたしと同じように、ほとんどすべてのクルマに乗ってきた幸運な人です」

「現代のクルマと違って、古い小型車は合法的な速度で限界まで走らせることができるのです。スピードの出し方を学び、持てる力を最大限に発揮する。現代的なドライビングよりも楽しいだけではありません。なぜなら、自由に使えるパワーが20psに満たないため、すべてに時間がかかりますが、その長い時間を楽しむことができるからです」

マット・サンダース

「ISAについて一般の人よりも詳しい人たちに話を聞いたところ、自動車愛好家の不安は杞憂に終わったようです。この技術が常時稼働するためには、良好なモバイルデータ接続と明確で規則的な制限速度の標識が必要になります。僕の毎日の通勤には影響があるかもしれませんが、最高のドライブができるような、標識がまばらな人里離れた道路に大きな影響を与えるとは思えません。ISA導入後にモーターライフを楽しみたいなら、交通量の少ない道を探すといいでしょう」

コリン・グッドウィン

「わたしにとって、高速走行は欧州大陸でさえ何年も前に終わったことです。多額の罰金、クルマの没収、そして最悪の場合は刑務所送りになる可能性があり、わたしは足の力を緩めました。ですから、ISAと一緒に暮らすのは簡単なことです」

「わたしはオースチン・セブン・スペシャルを作り、制限速度に近づくことなく、自分自身をハラハラドキドキさせることになるでしょう。海面から50フィートの高さで、時速200マイルで飛行機を飛ばす。そして、動力を使う趣味の中で最も美しいとされるオートバイに乗る。素晴らしいことだと思いませんか」

スティーブ・クロプリー

「これからやってくる速度制限のある新しい世界を考えると、わたしは幸運な人間の1人かもしれないと思います。わたしのような人間は、クルマの速さと同じくらい、その進歩を楽しんでいます。わたしはほとんど常に制限速度を守り、かなりゆっくり走りますが、たまに気が向くと、安全で誰も見ていないと判断したときに、ちょっとだけ疾走することがあります。これからも、同じようにやっていくつもりです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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