6.3L V8エンジンのGTサルーン メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3 ジェンセンFF 前編

公開 : 2022.09.24 07:05

世界最高峰の技術や豪華さを詰め込んだ、1960年代末のメルセデスとジェンセン。英国編集部が2台をご紹介します。

巨大なV型8気筒エンジンを積んだ2台

漆黒の艶を放つ、フォーマルでエレガントなドイツ製4ドアサルーン。リアに記された6.3という数字を見なければ、大きなV型8気筒エンジンを載せた獰猛な乗り物だとは、想像できないかもしれない。

その隣で金色に輝くのは、スタイリッシュなグランドツアラー。アメリカンなエンジンとイタリアンなデザインを組み合わせ、ブリティッシュ・クーペとして完成されている。

ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF
ブラックのメルセデス・ベンツ300 SEL 6.3と、ゴールドのジェンセンFF

フロントフェンダーの後ろに開けられたエアアウトレットが、世界初となる四輪駆動の高性能オンロードモデルだったという事実を控えめに主張する。ルーフは錆びにくいステンレス製だ。

今回ご紹介するのは、メルセデス・ベンツ300 SEL 6.3とジェンセンFF。比較しにくい2台に思えるが、スポーツカーに乗るほど若くはないものの、裕福で運転好きな人へ訴求できる能力という点では共通していたと思う。

そして何より、巨大なV型8気筒エンジンが載っている。排気量は6.3Lもある。

英国での販売価格は、300 SEL 6.3が7273ポンドでFFが6857ポンドと、そこまで大きな開きもなかった。当時はロールス・ロイス・シルバーシャドー級に高く、4シーター以上の高性能モデルとしては最高額の1台だった。

自動車移動のストレスを和らげ、裕福な身分にあるというプライドを不足なく満たしてくれる、実用的なクルマといえた。イタリアのエキゾチック・ブランドのように、ファッショナブルではなかったとしても。

リアシートの空間は同じくらいゆとりがある

この比較では、リアシートの広さとドアの枚数は無視することにしよう。オーナーが日常的に運転する限り、後ろに誰かが乗るという機会は少なかったはず。どちらも走りを楽しむための、ドライバーズカーとして提供されていた。

FFのリアシート側の空間は、実際に座ると300 SEL 6.3と同じくらいゆとりがある。座り心地もいい。当時のジェンセンは、このFFを親密なサルーンと呼んでいた。駐車場に並んでも、メルセデス・ベンツに負けない風格を持ち合わせてもいる。

ジェンセンFF(1967〜1971年/英国仕様)
ジェンセンFF(1967〜1971年/英国仕様)

今回の2台は、どちらもオートマティック。車重は300 SEL 6.3が1724kgで、FFが1820kgある。最高速度は210km/h以上が出た。リアアクスルのファイナルレシオは同じだ。

1969年の平均的なファミリーカーが100km/hまで加速する時間で、この2台は160km/hまで加速できた。ハイオクタンのガソリンを沢山燃やして。実際の燃費は300 SEL 6.3で5.5km/L前後。FFなら、3.5km/Lも走れば良い方だろう。

今から60年前に、7000ポンドの新車を買う余裕のある人が、ガソリン代を気にすることはなかった。CO2の排出量も。とはいえ、満タンで320kmも走れないFFの航続距離には、不満を感じていたかもしれない。

大きなボディはスチール製。2台の共通点としては、この程度かもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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