680psの燃料電池コンセプト ヒョンデNビジョン74へ試乗 記憶が曖昧になる加速力

公開 : 2022.09.29 08:25

記憶が曖昧になるほど激しい加速

ビアマンによれば、プロジェクトの主な目的は左右に搭載された駆動用モーターを同時に制御し、仮想的なリミテッドスリップ・デフを検証すること。ヒョンデは、キアEV6 GTが発揮する585ps以上の最高出力を実現させたいと考えている。

「実働するプロトタイプが完成したのは2年前。ヒョンデのテストコースで初めて運転した時は少し不自然で、正直怖かったですね。しかし現在は、メカニカルLSDと同様なフィーリングを得ていますよ」

ヒョンデNビジョン74 コンセプト
ヒョンデNビジョン74 コンセプト

筆者は早速、Nビジョン74のステアリングホイールを握ることが許された。多くのコンセプトカーは運転可能だといっても低速域に限られ、運転席に座った印象を確かめられる程度に過ぎない。しかしこのクルマは異なる。

ビルスター・ベルク・サーキットの高速コーナーを、全開で駆け抜けられるという。別のドライバーは、タイトコーナーでドリフトを披露させていた。筆者は、もう少し控えめにしておいたけれど。

助手席に座った技術者は、スタビリティコントロールをオンのまま、スポーツ・モードまで試していいと話す。車内にはロールケージが張り巡らされ、乗り込むのは少々大変。キア・スティンガーがだった面影はまったくない。

シートベルトを締めて発進。ピットレーンの出口からアクセルペダルを蹴飛ばした途端、激しい加速に襲われた。前後の記憶が曖昧になるほど。

オーバーステア状態へ自然に移行

ヒョンデによれば、0-100km/h加速を4.0秒以下でこなすそうだが、実際の感覚としてはそれより遥かに速い。アクセルペダルへのレスポンスも、極めて鋭い。

多くの燃料電池車とは異なり、水素から作られた電気は直接には駆動用モーターへ送られない。1度、駆動用バッテリーを介するという。

ヒョンデNビジョン74 コンセプト
ヒョンデNビジョン74 コンセプト

燃料電池の出力は85kWで、駆動用モーターが最高出力を発生させるのに充分な電気は供給できない。しかし、強力な出力を持つ駆動用バッテリーへ継続的に電気を供給してくれる。量産仕様とする場合、航続距離は595kmになるらしい。

Nビジョン74の車重は2t近いそうだが、ピレリPゼロ4Sタイヤが生み出すグリップ力は凄まじい。まったく不安感なく、高速コーナーをハイスピードで処理していく。低速コーナーでは、不満ないトラクションで加速させる。

リアタイヤ左右の挙動は、ソフトウエアによって制御されているという感覚がない。速度やタイヤへ掛かる負荷が高まると、オーバーステア状態へ自然に移行していく。

燃料電池の技術もさることながら、トラクション管理の巧妙さにも唸らされる。サーキットを4周走り込んで気になった点といえば、感触の曖昧なブレーキペダルくらい。パワフルな駆動用モーターが生み出すスピードに、すっかり夢中になってしまった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マイク・ダフ

    Mike Duff

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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