生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 前編

公開 : 2022.09.17 11:15

混乱する英国政府にあって、歴代首相の移動手段となったローバーP5B。VIPに慕われたサルーンを、英国編集部がご紹介します。

公的資金で支えられていたローバー

ハロルド・ウィルソン氏にエドワード・ヒース氏、ジェームズ・キャラハン氏、マーガレット・サッチャー氏。1968年から1981年まで歴代の英国首相を運んだサルーンが、ローバー3.5リッター、P5Bだ。VIPが乗るクルマとして一目置かれてきた。

1950年代末に登場したローバー3リッター、P5を起源とするP5Bは、1973年まで生産された。だが、政府の自動車管理部門は現役として8年後も表舞台に立たせていた。上質なデイムラーXJ シリーズIIIへ、サッチャー政権時に交代するまで。

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)
ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)

当時は国有状態にあり、公的資金で支えられるブリティッシュ・レイランド傘下にあったローバー。政府トップが乗るサルーンとして、P5Bを選択しなければならない理由があった。

1980年代、ジョン・イーガン氏がジャガーとデイムラーの業績を回復。その後に政府から得た評価とは対照的といえる。

ローバーP5Bは、英国の要人が乗るクルマとして生まれたようなところもある。見た目は気品高く、威厳を過剰に漂わせることはない。車内は不足なく快適だが、贅沢すぎることはなかった。

リビングでは、ブラウン管の白黒テレビが現役だった時代。画面に映し出される報道映像のなかで、しずしずと託された仕事を確実にこなした。ストライキやテロが頻発する世界へ怯えながらも、歴代の首相を目的地まで運んだ。

妥当な選択肢が他に存在しなかった

それより以前、1950年代から1960年代に英国政府の公用車に選ばれていたのが、歴代のハンバーだった。1967年にハンバー・スーパー・スナイプの生産が終了すると、V8エンジンを搭載したローバーのサルーンがその後を受け継いだ。

パワーステアリングとオートマティックのトランスミッションが標準装備されつつ、価格は2000ポンドと良心的。市民の批判を集めることのない、賢明な選択といえた。

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)
ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)

ロールス・ロイスは高価すぎたし、ジャガーは華やかすぎた。ヴァンデンプラは公用車を提供をしていたものの、登場の古い4リッター・プリンセスは生産終了が迫っていた。当時の英国車では、妥当な選択肢が他になかったともいえる。

デイムラーも存在したが、その頃のモデルはDS420やジャガーXJ6がベースのソブリンというラインナップで、スポーティ過ぎる性格付けだった。ルーフラインは低く、リアシートの空間も充分ではなかった。

そんなわけで、英国の第67代と第69代の首相を務めたハロルド・ウィルソン氏を運ぶことになったのが、ローバーP5B。1968年1月に公用車として登録され、後席には特注のパイプ用灰皿が据えられていたという。

ローバーは首相以外の上級閣僚にも提供された。その水準へ届かない人物には、BMC ADO17シリーズやオースチン3リッターなどが充てがわれた。ボディはディーラーでは選べないエボニー・ブラックで塗られ、白い装飾ラインが特徴だった。

公用車仕様は、右ハンドルの輸出仕様で組み立てられたという。理由は定かではない。

記事に関わった人々

  • マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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