生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 後編

公開 : 2022.09.17 11:35

番外編:担当秘書が首相へ宛てた手紙

1979年5月4日、マーガレット・サッチャー氏が第71代の英国首相へ就任。約2週間後の5月17日、担当秘書として首相が乗るクルマを検討していたコリン・ピーターソン氏は、サッチャーへ次のような手紙を記している。一部を要約しながらご紹介しよう。

「クルマの買い替えで困っています。現在公用車としてあるのは、古いローバー3.5リッター(P5B)が3台と、新しいローバー3.5が1台、日常的な移動用の小型車が1台です」

マーガレット・サッチャー氏の首相就任式典の様子
マーガレット・サッチャー氏の首相就任式典の様子

「同じクルマを4台揃える必要はないものの、来訪者も使用できるメイン車両が2台必要です。予備のバックアップ車もあれば、理想的です」

「古いローバーP5Bは走行距離が長すぎ、交換時期を過ぎています。1台は3月の公務中に故障しており、状態は良くありません。買い替えの必要性に迫られています」

「首相が乗るクルマは英国製であるべきです。快適で会話のプライバシーが守られ、必要に応じて長距離移動時にも公務を行える空間を備えている必要があります。候補になるのは、次のとおりです」

そして、下記の5台が挙げられている。
ロールス・ロイス・シルバーシャドー
デイムラー・リムジン
デイムラー・ソブリン
フォード・ドーチェスターまたはミンスター
ローバー3.5リッターの新しい仕様

さらに次のように続く。「ローバー3.5である必要はありません。メインの車両にはなりませんが、バックアップ用にはなるでしょう」

1981年まで続投されたローバーP5B

「政府では、5台のフォード・ドーチェスターと2台のミンスターを所有しています。ボディを拡張したモデルで動力性能が不足気味なため、ドライバーは好みません。快適で充分な空間はあり、乗る側の人気は高いようです。英国製でもあります」

「デイムラー・ソブリンは、新しい仕様が登場しました。動的能力に優れていますが、リアシートが少々狭く、乗り降りは若干しにくいようです」

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)
ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)

「デイムラー・リムジンは、要人への訪問時に政府関係者が乗っています。静かで快適で、わたしのイメージとしてはメイン車両に理想的だと感じています」

「ロールス・ロイス・シルバーシャドーは素晴らしいクルマです。望ましい選択ですが、過去には高級車の購入が表現的な問題を生みました。維持費は高くない可能性がありますが、導入費は公費の支出という点で批判を受けるでしょう」

「クルマは、安全上の理由と通信機器へ対応させるため、後日に変更できません。選択は個人的なもので、好みが左右すると思います。早い段階で下記の試乗をご提案します」

試乗候補に提案されたのは、次の4台だった。
デイムラー・リムジン
デイムラー・ソブリン
フォード・ドーチェスター
フォード・ミンスター

「年間コストはミンスターが1万2000ポンド、デイムラー・リムジンが1万3000ポンドで、さほど違いません。購入時のコストはデイムラー・リムジンで1万5300ポンド、デイムラー・ソブリンで1万900ポンドです」

最終的には、デイムラーXJ シリーズIIIへ交代する1981年まで、ローバーP5Bが続投となったのだ。

ローバー3.5リッター P5B(1967〜1973年/英国仕様)のスペック

英国価格:2000ポンド(新車時)/5万ポンド(約825万円)以下(現在)
販売台数:1万1501台(サルーンのみ)
全長:4724mm
全幅:1778mm
全高:1549mm
最高速度:177km/h
0-97km/h加速:10.7秒
燃費:6.0-7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1587kg
パワートレイン:V型8気筒3528cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:162ps/5200rpm
最大トルク:31.1kg-m/3000rpm
ギアボックス:3速オートマティック

記事に関わった人々

  • マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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