ボルボ144Sで大西洋から北極海へ 片道1万6000km カナダ人学生のロードトリップ 後編

公開 : 2022.10.02 07:06

COVID-19の流行で溜まった空虚感を晴らすべく、ロードトリップに出た1人のカナダ人学生。約1万6000kmの旅のレポートです。

偶然入手できたプロペラシャフト

ボルボ144Sの走行中の振動は徐々に大きくなる一方で、スペリオル湖に面したサンダーベイへ近づく頃には著しく悪化。走ることすら難しい状態になった。

プロペラシャフトの不具合を疑いつつ、ジャッキアップ。一見すると問題なさそうだったものの、シャフトの途中が大きく欠けていた。ガタガタと大きくボディを震わせながら市街地までなんとか足を進めたが、リタイアも考えた。

1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子
1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子

交換用のプロペラシャフトを求めて、諦め半分でフェイスブックのグループに投稿。驚くことに、立ち往生している場所から数km離れた場所に住むケビンという男性から、1時間も経たないうちにレスポンスが。宝くじに当たったような気持ちだった。

すぐに電話し、彼へ協力を仰いだ。プロペラシャフトは部品取りのボルボ・アマゾンに付いた状態だったが、取り外してスーパーマーケットの駐車場まで持って来てくれた。今までに見たことがないほど美しいシャフトだった。

その後もボルボは、素晴らしい人との出会いで何度も復活を遂げた。カナダ中部のサスカチュワン州では、グラベルを快走中に舞い上げた砂埃でオルタネーターが故障した。夕日がトウモロコシ畑に沈む様子は、最高に素晴らしかったのだが。

キャブレターが外れた時は、ナイロンバンドでエンジンに固定。250kmほどをしのいだ。ラジエタークーラント・タンクは、飲料水のボトルを2重にして一時的に代用した。

オルタネーターやキャブレターも交換

カナダ西部の山岳地帯へ辿り着く頃には、ディーゼル発電機用のオルタネーターが載っていて、違うキャブレターで燃料が供給されていた。スロットルケーブルの動きが渋く、回転数が落ちにくいという悪癖の持ち主だった。

ロッキー山脈超えは、まさに冒険だった。東部に住んでいた自分は山並みを目にするのが初めてで、涙が自然と溢れてしまった。

1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子
1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子

山中では要所要所に用意されている退避小屋で過ごし、素晴らしい友人を作ることもできた。その1人は近くの山頂まで登山に誘ってくれたが、死ぬほど辛い体験だった。初雪が降るなか、短パンとTシャツで山小屋に寝ることになったのだ。

数週間を掛けてロッキー山脈を下り、太平洋に面したブリティッシュ・コロンビア州のビクトリアへ到着。オンタリオ州で出会った冒険仲間と再開でき、短い滞在だったものの素晴らしい時間を過ごすことができた。

40歳代半ばの、ヤンという男性だ。自転車でカナダを横断しているという。

北極海に面したトゥクトヤクトゥクを目指す自分は、さらに西へ。山脈の間に、対向車と殆どすれ違わない道が延々と伸びる。ボルボと自分だけという孤独。冬が近づき、気温は日に日に下がっていったが、素晴らしい景色がそれ以上の記憶を与えてくれた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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