ボルボ144Sで大西洋から北極海へ 片道1万6000km カナダ人学生のロードトリップ 後編
公開 : 2022.10.02 07:06
総長1200kmの砂利道が続くハイウェイ
アメリカ・アラスカ州と接するユーコン準州までは、1日8時間近く運転して、ビクトリアから1週間を要した。大きな街を見つけ、数日間を掛けて食料や物資を蓄えた。缶詰に防寒着だけでなく、エンジンオイルも3缶買った。
ボルボのエンジンは、160km走る毎に1L近くのエンジンオイルを燃やしていた。
北極海へ抜けるデンプスター・ハイウェイを走る前日、スーパーマーケットの駐車場で点検整備。ハイウェイは総長1200kmもあるが、途中にガソリンスタンドが1か所あるだけ。他には何もない、砂利道が続いている。
事故を起こしても誰も助けに来ない、という警告看板が立っている。それでも、自分の冒険をやめるわけにはいかない。
北へ進むほど気温が低くなり、雪が降り出した。氷点下でもクルマの調子は悪くなかったが、ヒーターの故障でドライバーの調子は優れなかった。見渡す限り雪に覆われた山と谷。人工物は道路以外、視界に存在しない。
デンプスター・ハイウェイでは毎日が冒険だった。最初の夜は、人家から320kmも離れた場所で過ごした。人の手の入っていない大自然が広がり、今回のロードトリップで最も特別な体験の1つになった。夜空にはオーロラが漂っていた。
強い風がルーフテントのキャンバスを鳴らす。様々な動物の吠える声が響く。グリズリー(ハイイログマ)の声も混ざっていたことを後日知るが、とにかく恐怖でまともに眠れなかった。
最後まで裏切ることがなかったボルボ
翌日、ガソリンスタンドに立ち寄りボルボのタンクを満たした。北部を走る長距離トラックの運転手は、自分のクルマを見て驚いていた。恐らく、雪が舞う季節にデンプスター・ハイウェイを走る、最も頼りなさそうな見た目の乗り物だったに違いない。
小さな集落へ立ち寄りクルマを点検していると、助手席側のリアダンパーが外れていることに気が付いた。幸運にも数100m離れた場所にガレージがあり、数本のボルトを購入。お昼には修理を終えることができた。
デンプスター・ハイウェイで北極圏を超え、記念撮影を一応済ませ、さらに北上。2021年10月9日、遂に北極海に面するトゥクトヤクトゥクへ到達。北の町で伝統的な魚の燻製を味わいながら数日を過ごし、旅の余韻に浸った。
1969年式ボルボ144Sと筆者は、大西洋から北極海までの走破に成功した。出発から98日間でカナダが接する3つの海に立ち寄り、1万6337kmを走りきった。
今回のロードトリップが、人生を大きく変える体験になったことは間違いないだろう。途中で沢山の人と出会い、友好を深めることもできた。目標としたことは達成できるという、大きな自信も生まれた。そしてボルボは、最後まで裏切ることがなかった。
寄稿・撮影:Xavier Theriault(グザヴィエ・テリオ)