ボルボ144Sで大西洋から北極海へ 片道1万6000km カナダ人学生のロードトリップ 後編

公開 : 2022.10.02 07:06

総長1200kmの砂利道が続くハイウェイ

アメリカ・アラスカ州と接するユーコン準州までは、1日8時間近く運転して、ビクトリアから1週間を要した。大きな街を見つけ、数日間を掛けて食料や物資を蓄えた。缶詰に防寒着だけでなく、エンジンオイルも3缶買った。

ボルボのエンジンは、160km走る毎に1L近くのエンジンオイルを燃やしていた。

1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子
1969年式ボルボ144Sでカナダ・トゥクトヤクトゥクを目指す旅の様子

北極海へ抜けるデンプスター・ハイウェイを走る前日、スーパーマーケットの駐車場で点検整備。ハイウェイは総長1200kmもあるが、途中にガソリンスタンドが1か所あるだけ。他には何もない、砂利道が続いている。

事故を起こしても誰も助けに来ない、という警告看板が立っている。それでも、自分の冒険をやめるわけにはいかない。

北へ進むほど気温が低くなり、雪が降り出した。氷点下でもクルマの調子は悪くなかったが、ヒーターの故障でドライバーの調子は優れなかった。見渡す限り雪に覆われた山と谷。人工物は道路以外、視界に存在しない。

デンプスター・ハイウェイでは毎日が冒険だった。最初の夜は、人家から320kmも離れた場所で過ごした。人の手の入っていない大自然が広がり、今回のロードトリップで最も特別な体験の1つになった。夜空にはオーロラが漂っていた。

強い風がルーフテントのキャンバスを鳴らす。様々な動物の吠える声が響く。グリズリー(ハイイログマ)の声も混ざっていたことを後日知るが、とにかく恐怖でまともに眠れなかった。

最後まで裏切ることがなかったボルボ

翌日、ガソリンスタンドに立ち寄りボルボのタンクを満たした。北部を走る長距離トラックの運転手は、自分のクルマを見て驚いていた。恐らく、雪が舞う季節にデンプスター・ハイウェイを走る、最も頼りなさそうな見た目の乗り物だったに違いない。

小さな集落へ立ち寄りクルマを点検していると、助手席側のリアダンパーが外れていることに気が付いた。幸運にも数100m離れた場所にガレージがあり、数本のボルトを購入。お昼には修理を終えることができた。

1969年式ボルボ144Sと寄稿者のグザヴィエ・テリオ氏、北極海と記された看板
1969年式ボルボ144Sと寄稿者のグザヴィエ・テリオ氏、北極海と記された看板

デンプスター・ハイウェイで北極圏を超え、記念撮影を一応済ませ、さらに北上。2021年10月9日、遂に北極海に面するトゥクトヤクトゥクへ到達。北の町で伝統的な魚の燻製を味わいながら数日を過ごし、旅の余韻に浸った。

1969年式ボルボ144Sと筆者は、大西洋から北極海までの走破に成功した。出発から98日間でカナダが接する3つの海に立ち寄り、1万6337kmを走りきった。

今回のロードトリップが、人生を大きく変える体験になったことは間違いないだろう。途中で沢山の人と出会い、友好を深めることもできた。目標としたことは達成できるという、大きな自信も生まれた。そしてボルボは、最後まで裏切ることがなかった。

寄稿・撮影:Xavier Theriault(グザヴィエ・テリオ)

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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