クライスラーの現在

この素晴らしいCMの後、みんなすぐにクライスラー200を買って、二度とBMW 320iを買おうとは思わなくなり、みんな幸せに暮らしましたとさ……とはならなかった。残念ながら。自動車業界は厳しい。たった1本のCMで、200のような平凡なクルマやクライスラーというブランドを救うことはできないのである。

2016年、フィアット・クライスラー社のセルジオ・マルキオンネCEOは、クライスラー200とその兄弟車ダッジ・ダートについて、「我々がこれまで行ってきた事業の中で最も金銭的な報酬が少ない事業」と発言した。200は同年末に廃止され、クライスラーのラインナップは現在、ミニバンのパシフィカ(写真)とボイジャー、そして2004年発売の300だけになっている。300は2023年モデルで生産終了となる予定だ。

クライスラーはこの先、どんな道を辿るのだろうか。
クライスラーはこの先、どんな道を辿るのだろうか。

クライスラー・パシフィカは平凡なミニバンだが、グーグルから分社化したウェイモ(Waymo)との提携によって、自動運転車のテスト車両として使用されている。……現在のクライスラーで、それ以外に特筆すべき点がないのが残念だ。加えて、「Imported From Detroit」というスローガンももはや通用しない。米国で販売されるクライスラーは、すべてカナダで製造されるようになったからだ。

クライスラーはかつて偉大なイノベーターだった。ディスクブレーキ、電動ウィンドウ、パワーステアリングなどを搭載した世界初の市販車を世に送り出したのだ。しかし、今日では、親戚にあたるジープとラムの影に隠れてしまっている。

ジャガー:Grace, Space, Pace(グレイス、スペース、ペース)

このスローガンは、1930年代にジャガーではなくMGが新型のSAとWAを宣伝するために、「Space, Grace, Pace(スペース、グレイス、ペース)」と使ったのが始まりだ。そして戦後、ジャガーの創始者ウィリアム・ライオンズがMk5セダンを宣伝するために転用し、その後の歴史に名を残すことになったのだ。

「Grace, Space, Pace(グレイス、スペース、ペース)」は韻を踏んでいて舌の上をよく転がるフレーズであり、ジャガーの信条を簡潔な表現で伝えている。数十年にわたり、ほとんどのモデルがその理念を十分に発揮してきた。しかし、このスローガンは、ジャガーがブリティッシュ・レイランド(BL)に吸収された、英国系自動車メーカーにとって暗黒時代といえる1960年代に消滅した。

ジャガー:Grace, Space, Pace(画像は当時の英AUTOCAR誌)
ジャガー:Grace, Space, Pace(画像は当時の英AUTOCAR誌)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ロナン・グロン

    Ronan Glon

  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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