キャデラック:The Standard of the World(世界のスタンダード)

壮大なスローガンだが、欧州などで華々しい活躍を残していないことを考えると皮肉に聞こえてしまう。このスローガンは、100年以上前の英国での出来事にそのルーツを辿ることができる。1908年、RAC(王立自動車クラブ)は、キャデラックの製造工程における高度な「標準化」を評価し、権威あるトロフィーを授与したのだ。

まず、無作為に選ばれた3台のキャデラック・モデルKが、サーキットで10周、約40kmを走る。そして、完全に分解された後、地元のディーラーから提供された89個の部品を混ぜ合わせ、再び組み立てたところ、800kmの距離をトップスピードで走ったのである。これは、当時のキャデラックの技術力、製造力の高さを示す偉業とされた。

キャデラック:The Standard of the World
キャデラック:The Standard of the World

こうして、キャデラックは自らを「The Standard of the World(世界のスタンダード)」と呼ぶようになり、このスローガンは何十年にもわたって広告に掲載された。その後、標準化が進みむと、エレガンスやラグジュアリー、パワーを意味するスローガンに変更された。キャデラックは走る宮殿であり、余裕のパワー、堂々としたデザイン、大排気量のV8を特徴としていた時代を象徴するものだ。

キャデラックの現在

2022年のキャデラックは、世界のスタンダードと呼べるほど器用なものではない。なぜなら、キャデラックは多くの市場から姿を消しているからだ。今は米国と中国での市場競争に時間、エネルギー、資金を投入しており、ドイツのアウディ、英国のジャガー、日本のレクサスは、キャデラックを脅威とは感じていないはずだ。

しかし、2019年に導入した「Rise Above(超越)」というキャッチフレーズは、「The Standard of the World」と誇らしげに宣伝していた時代をほんの少しだけ彷彿とさせる。キャデラックは2000年代、万人向けのブランドになろうとしたため、確固たるイメージと方向性を見失ってしまった。キャデラックの車種は、有能でありながら調和がとれていないことが多かったのだ。

アメ車の代表格とも言えるキャデラックは、SUVモデルとともに次世代EVに注力し、再び世界の覇権を狙っている。
アメ車の代表格とも言えるキャデラックは、SUVモデルとともに次世代EVに注力し、再び世界の覇権を狙っている。

2010年代後半、キャデラックは原点に戻り、ラグジュアリーとアメリカン・スピリットを再び重視することになる。同社にとって「Rise Above」とは、障害を克服し、ライバルを追い越して、再び世界中の消費者が欲しがるブランドになるという意思表示であろう。

消費者にとっては、一生懸命働いて人生の難局を乗り越え、お金を稼いで良いクルマを買うという、憧れのスローガンなのだ。2019年に使われた広告では、SUVラインナップを強調していたので、文字通り「ステップアップ」を意味するのかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ロナン・グロン

    Ronan Glon

  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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