4.0Lフラット6の走る芸術品 セオン・デザイン911へ試乗 964を徹底レストモッド 前編

公開 : 2022.10.26 08:25  更新 : 2022.10.26 09:24

永遠に眺めていられそうな美ボディ

エンジンはオリジナルの3.6Lブロックがベース。最高出力は、964型911では自然吸気のカレラ2で250ps、ターボで320psだったが、同社の技術力によって大幅に引き上げられている。

現在は375psから456psまで3段階のメニューが用意され、今回のCHI001はその中間に位置し、排気量としては最大になる。最もパワフルな例では、スーパーチャージャーで吸気圧が高められる。4本出しのマフラーが勇ましい。

セオン・デザイン911「CHI001」(南米仕様)
セオン・デザイン911「CHI001」(南米仕様)

すべてのエンジンを手作業で組み立てるのは、ニック・フルジェームス氏。過去にはコスワース社のF1用エンジンへ携わったほか、トム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)やジャガーなどとも共同で仕事をした経験を有するそうだ。

CHI001のエンジンは、理想的な自然吸気のフラット6といえるだろう。胸のすくような吹け上がりと、公道での扱いやすさを両立させているのだ。

フライホイールはシングルマスで、カムはかなりアグレッシブな山を持つ。スロットルボディは気筒毎に6本。カーボン製のエンジンカバーに収まるよう、きれいなカーブを描いている。

トランスミッションは、993型911に搭載されるG50型と呼ばれる6速マニュアルが、リビルド後に組まれる。もちろん、LSDも標準で搭載される。

抑揚を増した容姿は、永遠に眺めていられそうにすら思える。クラシカルな17インチ・アルミホイールは淡いシャンパンゴールドで、工芸品のように美しい。艷やかなカーボン製のボディ面は乱れひとつなく、細かなトリム類も見事にフィットしている。

チューンド空冷エンジンが放つ唸りと脈動

ウットリしている意識を立て直し、ドアを開く。現代的なフォルムながら、年代物風に仕立てられたレカロシートが筆者の身体を包んでくれる。

インテリアは程よくクラシカル。期待する通りに華やかで、素材のひとつひとつに意識が配られつつ、彼らの意思によってオリジナルの造形は崩されていない。

セオン・デザイン911「CHI001」(南米仕様)
セオン・デザイン911「CHI001」(南米仕様)

現代のモデルと比べれば、多少の妥協もある。ドリル加工されたペダル類も見事な仕上がりながら、例によってオフセットしている。ナルディのステアリングホイールは、シンプルで握り心地が良いものの、直立気味でフロントガラス側に50mm程遠い。

運転席からの視認性は驚くほど良い。メーターも感心するほど見やすい。最新のモデルに慣れていると、目からウロコだ。

とても興奮を誘う車内だが、フラット6を始動させるとさらなる気持ちの高ぶりが待っていた。アイドリング時から、ボディシェル全体が燃焼に合わせて激しく振動する。荒々しい生物が、狭い空間へ押し込められたことへ反抗するように。

技術者のホーリーは、CHI001は普段使いに困らないほど従順に走ると主張する。しかし、チューンド空冷エンジンが放つ唸りと脈動は、いかにも乗る人を選びそうだ。車重1160kgのRRレイアウトに、405psという組み合わせも。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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