4.0Lフラット6の走る芸術品 セオン・デザイン911へ試乗 964を徹底レストモッド 後編
公開 : 2022.10.26 08:26
英国のセオン・デザイン社が手掛けた、レストモッド911。経験と愛情で完成された1台を、英国編集部が評価しました。
手強い印象なしに一般道を爽快に駆け回れる
アイドリング時のシリアスさに圧倒されたが、杞憂だった。セオン・デザイン 911「CHI001」のクラッチペダルは軽く、ステアリングには電動アシストが実装されている。
エンジンの燃焼はモトロニック・マネージメント・システムが調律し、敏感ではあるがマナーは良い。8800rpmを手中に収める往年の3.0 RSRほど、必死になる必要はない。
確かにノイズは騒がしいものの、現代基準でも鋭く吹け上がるフラット6は滑らかにスピードを乗せていく。ギクシャクするような難しさも感じない。
6速MTは集中せずに変速できる。少しレバーの動きは軽すぎるようだが、ピタリと正確。ゲートを間違う可能性は低そうだ。
郊外の道を、特に手強い印象を受けることなく爽快に駆け回れる。セオン・デザイン社のレストモッドによって、964世代では叶えられなかった精度と機敏さを獲得している。
この操縦性を実現させているのが、最新のポルシェ・カレラカップ・レーサーと同じトラクティブ社のダンパー。5段階に減衰力を調整できる。
CHI001は、964の911 カレラRSより車高が10mm低い。そのぶんストロークも制限されるが、最もソフトなモードを選択していれば、軽量化されたボディは英国の傷んだ路面を滑らかにこなす。正確なステアリングホイールで、狙ったラインへ導ける。
シャシーバランスもニュートラル。とはいえ、フラット6がリアアクスルより後ろ側に載っていることも、疑いようはない。
伊達ではない405psと48.3kg-m
ダンパーを1番硬くすると、CHI001はステアリングホイールとアクセルペダルの動きへ一層機敏に反応する。そのかわり、乗り心地にも小さくない影響が出る。攻め込むような場面でも、公道なら選ぶ必要はないだろう。
サスペンションはモードによる変化幅が広く、状況に応じて最適な引き締まり具合を選べる。最新の911 GT3より、お買い物にも使いやすいように思う。
程なくして、操る自信が高まっていく。ドライブトレインのことも理解していく。エンジンやエグゾーストは、高音域で泣け叫ぶようなサウンドではないが、明確に共鳴する吸気音がそれを補う。
レッドゾーンめがけて、パワーが容赦なく高まる。トルク感も半端ない。高回転域までの勢いは新しいBMW M3のようで、405psと48.3kg-mは伊達ではない。
シフトアップすると、中回転域から再び同じくらい強力に加速する。攻撃的に軽いボディを押し進める。これほどの興奮を誘いながらも、乱れる様子はない。シャシーは適度に落ち着いていて、ボディサイズは小柄。公道で思い切り楽しめる。
タイヤは、964当時と比べれば遥かに太い。フロントは幅225と控えめに聞こえるが、オリジナルではリアタイヤの幅だった。太すぎることはなく、ワダチで進路が惑わされることもない。
ニュートラルなシャシーバランスで、グリップやトラクションの限界を探ることも可能としている。もう少し限界領域が低くても良いように感じるが、安全性と、エンジンの能力をフルに味わうためには必要な能力ではある。