ロールス・ロイス初のEV 「スペクター」ってどんなクルマ? 開発者インタビュー

公開 : 2022.10.19 18:45

英国の高級車ブランド、ロールス・ロイスが新型スペクターを発表。同社初の市販EVであるこのクルマは、どのような思想で作られたのか。開発者に話を聞きました。

新型EVに求められたもの

ロールス・ロイスが同社史上初の市販EV「スペクター」を公開した。AUTOCAR英国編集部は、技術責任者のミハイル・アユーブリー氏に話を聞いた。

ロールス・ロイスに入社する前はBMWのエンジニアとして多くの経験を積んできたミハイル・アユーブリー氏は、自身について「片足はグッドウッド(英国)に、片足はミュンヘン(独)にある」と表現している。

ロールス・ロイス・スペクター
ロールス・ロイス・スペクター    ロールス・ロイス

彼がロールス・ロイスと初めて関わったのは、2015年のファントム8の開発のときで、2018年のカリナンではより深く関与するようになった。そして、今回公開された新型スペクターは、まさに彼の子といえる。

――なぜ、ロールス・ロイス初のEVは、「スーパークーペ」と表現されるようなクルマでなければならないのでしょうか?

「電動ドライブトレインへの移行は、ロールス・ロイスの歴史において大きな出来事と見なされることがわかっていました。そこで、エンジニアリング的にも大きな挑戦となる、非常にエモーショナルなクルマから始めようと思ったのです。SUVから始める方が簡単だったでしょうね」

――スペクターのプロポーションには満足しているようですね。具体的には、どんなところがいいのでしょう?

「スペクターには、2つのとてもドラマチックな特徴があります。まず、Aピラーの根元から車軸までの距離が非常に長く、前輪を大きく前に押し出すことでドラマ性を高めています。大きなクルマですが、プロポーションは理想的です。当初は、ノーズを短くすることも検討しましたが、すぐに却下しました」

「2つ目の特徴は、全高と車輪の高さの比率です。他の大型車より実は背が高いのに、とても低く流線型に見える、それがわたし達の求めていたものです」

――そういったテーマを車内にも持ち込んだのでしょうか?

「もちろんです。ダッシュボードとフロントガラスを低くして、長いボンネットを見せるようにしました。また、車体中央のトンネルには、ケーブルやバッテリーセルを収納し、前席乗員には親密感と包み込むような感覚を与えています。スペクターは贅沢な4シーターなのです」

走りにおいて重視したこと

――バッテリーの本体は、前輪と後輪の間の車体下を走っていますね?

「そうです。このようにバッテリーを搭載することで、車体全体の剛性が大幅に向上します。EVアーキテクチャの柔軟な設計により、非常に斬新な方法で搭載することができました。大型車の場合、バッテリーを車体下部に搭載すると、コーナリング時に変なたわみが生じて、歪んだレスポンスになってしまうことがあります」

「その点、わたし達は細心の注意を払っています。結果、ステアリングがほぼ瞬時に反応するようになり、予測しやすいクルマに仕上がりました。このため、ドライバーは車重を意識することなく運転できるでしょう。また、サスペンションマウント周辺の局部剛性にも気を配り、路面の乱れに対応しています。これだけ静かなパワートレインには、そうした配慮が必要なのです」

――ドライバーにどのような音を聞かせるかについて、議論はありましたか?

ロールス・ロイスのエンジニアリング責任者、ミハイル・アユーブリー氏
ロールス・ロイスのエンジニアリング責任者、ミハイル・アユーブリー氏

「ありました。もちろん、外から聞こえるべき音については法律で定められていますが、車内で聞こえるべき音については、購入者の意見が一致することはまずないだろうとわたし達は考えました。そこで、2つのソリューションを用意することにしました。無音と、まだ公表できない『何か』です。それは、わたし達からのサプライズになるでしょう」

――スペクターには、洗練されたシャシー技術が多く採用されていますね。その内容を教えてください。

「もちろんです。アクティブ四輪駆動と四輪操舵、エアサスペンションもありますね。これらはすべて、ドライバーの要求と路面状況の両方をモニターする電子機器によって制御されています。当社の制御システムは、横方向、縦方向、そして上下方向という領域に分離されています。直進時にはアンチロールバーが切り離され、最高の乗り心地を実現します」

――その結果はどのようなものでしょうか?

「スペクターは非常に洗練されており、パワフルでありながら、とても運転しやすいクルマです。それが何よりも求めていたものです。加速タイムを追い求めるわけではないけれど、限りないパワーを秘めている。そして何より、予測しやすく、快適で、ラグジュアリーであり、お客様がロールス・ロイスに求めるすべてを備えています」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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