BMW X4 vs ポルシェ・マカン

公開 : 2014.08.16 23:50  更新 : 2017.05.29 19:33

モーターショーで、ジャーナリストたちを釘付けにするようなクルマは、実のところその真価がみえぬままに名前ばかりが馳せることが多い。甘いチョコレートがたっぷりとコーティングされたケーキに、食べる前から女子たちが目をきらめかせるのと一緒だ。

ポルシェ・マカンも同じ。ましてやポルシェ。ましてや流行りのSUV。乗る前から議論ばかりが盛り上がるのも無理はない。

しかしマカンの場合、注目を集めるに値する能力を持っているのも事実。どの4WDとも異なった魅力を持っているのだ。つい先日、われわれが4つ星を与えたレンジローバー・イヴォークを、いとも簡単に打ち負かしたことからも能力の高さを伺えるのではないだろうか。

多くの人がSUVに求める ’偉そうなカンジ’ を見事に体現する兄貴分のカイエンよりも優れたドライバーズカーでありながら、各高級車ブランドが販売するミドルサイズSUVよりも、さらにいい。

その良さを詳しく見ていくために、BMW X4を一緒に連れだすことにした。クーペのような容姿に、パフォーマンスの高さと、サルーンのハンドリング、高級感やステータス性を見事に盛り込んだX4に対し、マカンはどのようにして我々を魅了するのだろうか。早速みていくことにしよう。

まずはじめに、両者の共通点の多さに驚く。テストに供したxDrive 30dとディーゼルSを引き合いに出せば、出力はまったく同じ258psを発生。乾燥重量の差は15kg以下。全長の差は10mm以下、ホイール・ベースの差も3mm以下だ。高さに至っては全く同じである。

CO2排出量と燃料消費率に関しては、さすがのBMW、マカンよりもわずかではあるが優れる結果となっているが、車両価格と保険はマカンの方が安く済ませられる。ポルシェの値落ちしにくいところは、マカンも例外ではない。

これほどまでに両者が近いところにあると、動かす前からどちらが優勢かを見極めることは難しい。

ただし、BMWはマカンよりもカタログではわかり得ない不利な面をもつのも事実。路上で実際にご覧になったなら、あるいは写真で見たならば、お分かりの読者もいらっしゃるかもしれないのだが、X6ほどの矛盾を抱えていないのだ。

矛盾を抱えていない、というのは別に悪いことではないように思えるかもしれない。だけれどもX6の場合、後方にむけて押し込まれたルーフラインや輪郭のはっきりとしたボンネット、脇腹にくっきりと引かれた直線など、完璧なプロポーションに対して、後ろから見ればアンバランスとしか言いようのない出で立ちなのだ。これこそがX6の、われわれを惹きこむ魅力である。

その点X4は、どことなく小奇麗に纏まりすぎている。むりやり繋ぎ合わせた合成写真というよりも、モダンなBMWのほうに近いのだ。

事実、このクルマと1週間あまりをともにし、スタイリングに関する話をしたものは一人もいなかった。平均的な4WDに比べて、ルックスこそがこのクルマの特筆すべきポイントだと言うのに、これじゃあちと悲しい。

その反面、シート・ポジションこそマカンよりも高いものの、座った感じはとてもいい。ただし、マカンのようにスポーティで広さもあり、特別な感覚がないのは残念。

その分X4は後部座席をもって名誉挽回する。スペースこそ手狭な感じがするけれど、膝部や足元、頭上の全てがマカンのそれより広い。マカンは座った時のことしか考えられておらず、膝を擦り、頭をぶつけながら乗り降りをする羽目になった。

ニッチ市場に的を絞った、ユニークなSUVにどれほどの実用性を求めるべきかは難しいところではあるけれど、500ℓという荷室容量を含め、使い勝手はX4の方が優勢なのは間違いない。

そしてこれまた最低地上高がどれほど重要なのかは分かりかねるが、豪華なエア・サスペンションを備えないマカンの190mmよりも、240mmのX4が優勢。まぁ、取るに足らないことかもしれないけれど。

BMWの ’血統書付き’ の6気筒エンジンを積んでいるかどうかは、スポーティネスを打ち出す重要な要素になってくる。その点マカンに組み合わせるアウディ製3.0ℓV6エンジンは歴史的背景をみればやや ’薄味’ に感じるかもしれない。だけれどもそれは、あくまで雰囲気の問題で実際に乗ってみればマカンのエンジンの方が力強いトルクを発生する。パワー・トレインに関しても、X4ももちろん良く出来ているが、マカンの方がいい。

ただしディーゼルとは思えないほどのレスポンスや柔軟性は、BMWの得意分野。回転フィールは滑らかだし、機械要素の洗練度も非常に高い。

そこにBMW製の8速ATがさらに磨きをかけ、迅速でスムーズなシフト・チェンジには欠点のつけようがないし、適切なギアを賢く素早く選択してくれる。

1900kgに及ばんとする車体を100km/hまで6.0秒以下で運んでくれると考えれば、いかにエンジンとギアボックスの相性が良いかもわかる。

マカンの7速デュアル・クラッチATだって、負けてはいないのだけれど、BMWほどの賢さはない。中間のギアレシオが、この手のクルマの印象を大きく左右するだけに、こちらのロングな味付けはややもっさりとしていると感じた。

低い回転域ではX4ほど従順ではないし、スムーズさや回転上昇に伴う気迫のようなものも感じられない。速度を増していっても、X4の方がドキドキしたし、また親しみやすいと思った。

0−100km/h加速では、テストに借りだしたX4よりも0.5秒遅く、トップ・グレードである313psのxDrive 35dやアウディSQ5より1.0秒遅いマカン。エキサイティングな4WDを求めてマカンのオーナーになったならば、もう少し運動神経が良くてしかりだと思うのも無理もない。

ここまでの経過をまとめると、実用性を優先させたゆえに個性を欠くことになったX4ではあるが、エンジンとトランスミッションの観点からみれば、マカンより優勢といったところだ。

ただしここで終わらないのが、今回の比較試乗のおもしろいところ。

操舵に関して述べるなら、マカンの方がクイックで、サスペンションもカントリーロードでの凹凸のいなしが巧い。堅牢性もX4より高ければ、バランスもいいのだ。

AUTOCARのライターはあまり好まないけれど、やはりSUVである以上は泥道の走破性も確かめなければなるまい。価格の張るクルマだけに、はじめのうちはドロドロの道に突っ込むのは躊躇いがあったが、そのおかげでわかったこともある。

やわな ’自称’ SUVならば、泥道に入った途端に牙を抜かれたようになるのだが、X4もマカンも、メルセデスやアウディなどの例に漏れず非常に高レベルな走破性を見せれくれたのだ。

マカンには金属バネとオプションのPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)、PTVトルク・ベクトリング(賢いLSDとセット)、スポーツ・クロノ・パッケージを組み合わせる。

テストを通じて、4WDの同クラスの中でもっとも運動神経がいいクルマであることがわかったのだが、ポルシェの販売員いわく、セルフ・レベリング機能や車高調整機能が備わったエア・サスペンションを組み合わせれば、さらに動力性能が高まるそうだ。

エア・スプリングに変わるだけで、快適性はさらに良くなり、様々な路面状況に対する柔軟性も増すとのことなので、英国のようにあまりよろしくない道路が多い地域では大いに力を発揮することになるだろう。

ステアリングを切り込めば、本当に2トン近い4WDを操っているのかと疑ってしまうくらい、このクラス特有のロールやアンダーステアはない。

レスポンスには眼を見張るものがあり、すくなくともSUVのなかでこのクルマのような感覚を伴うものはかなり稀である。それなりの速度でコーナーを攻めこんでも、とても粘りづよいものだった。

おかげでコーナーを脱出する際に、必要以上に気を張る必要はないし、コーナリングのマナーもつねにニュートラル。どちらかと言うと、ステアリングの方が積極的に収束してくれるタイプのもので、このクラスでは例外的な仕立ての良さだと感じた。喩えるならば、後輪駆動のクーペやサルーンに近い操舵感覚だと言えよう。

X4も悪いものではないが、マカンを一度味わえば、やや色彩に欠いて感じるのも無理はない。ステアリングはわずかに重く、感覚は単調。速度に応じて可変してゆくスポーツ・ラックもリアリズムに乏しい(われわれがもっとも嫌うBMWの標準アイテムのひとつだ)。

ポルシェに比べてサスペンションは従順ではあるけれど、滑らかさは今一歩。少なくともテスト・コースでは落ち着きがなく、可変ダンパーは初期の入力に対して、やや ’古風’ な印象を与えた。コーナリング・バランスは落胆レベル、常に鼻先を引っ張って振り回されているような感覚があった。ミドル・コーナーではこちらが操舵修正する頻度が増したためドライブ・トレインもあまり好意的に思えなかった。

英国の道を走る限り、アダプティブMサスペンションを装着しないX4の方が乗り心地はよかった。

最後にX4の欠点ばかりになってしまったけれど、マカンとX4のディメンションは酷似しているにもかかわらず、両者の棲み分けの明確さは、やはり一度乗り比べるだけの価値はあった。

結論といこう。ここまで書けば、結論は見えてきたかもしれない。まだまだ見慣れぬスタイリングを纏うX4に比べてマカンと言うプロダクトが、いかに明確な意図をもって作られているかがよくわかる。

”もし顧客に何を欲するかを尋ねたならば、かれらは間違いなく速いクルマが欲しいと答えるだろう”、言わずと知れたヘンリー・フォードの言葉だ。

BMWがニッチ市場に偏執する間、ポルシェは正当法をもって、非常に優れたクルマをさらりと作ってみせた。

(マット・ソーンダース)

BMW X4 xDrive 30d Mスポーツ

価格 £46,395(802万円)
最高速度 234km/h
0-100km/h加速 5.8秒
燃費 17.0km/ℓ
CO2排出量 149g/km
乾燥重量 1895kg
エンジン 直列6気筒2993ccディーゼル
最高出力 258ps/4000rpm
最大トルク 57.1kg-m/1500-3000rpm
ギアボックス 8速オートマティック

ポルシェ・マカン Sディーゼル

価格 £43,330(734万円)
最高速度 230km/h
0-100km/h加速 6.3秒
燃費 15.9km/ℓ
CO2排出量 159g/km
乾燥重量 1925kg
エンジン V型6気筒2967ccディーゼル・ターボ
最高出力 258ps/4000-4250rpm
最大トルク 59.0kg-m/1750-2500rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ


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