異例の祭典に パリ・モーターショー2022 まとめ 注目はフランス車と中国車

公開 : 2022.10.25 06:05

10月17日から10月23日にかけて開催されたパリ・モーターショー2022。欧州最大級の自動車イベントの1つですが、4年ぶりの開催となった今年はこれまでと異なる様相を呈していました。レポートをまとめます。

いつになく小規模な開催 中国車の存在感

前回のパリ・モーターショーから4年。控えめに言っても、その間に多くの変化があった。モーターショーそのものも、実に大きく変わった。今年のパリは、自動車業界の動揺をそのまま反映したようなイベントと言える。

会場の広さ(2フロアの1ホールで、しかも詰め込みすぎ)にしても、出展するメーカーの数にしても、いかに小規模なものであるかがわかるだろう。シトロエンは姿を見せず、ステランティス傘下のジーププジョー、DS、そしてルノーアルピーヌダチアが主要な参加企業として名を連ねるのみだった。

パリ・モーターショーでは大型発表がいくつもあった。注目したい展示を紹介する。
パリ・モーターショーでは大型発表がいくつもあった。注目したい展示を紹介する。    AUTOCAR

だが、注目すべき点は多い。特に、ステランティスのCEOであるカルロス・タバレス氏は欧州の政治家に対して、欧州市場で販売される中国車に関税を課すか、欧州車に有利な補助金を与えるよう要求しており、今回のモーターショーの隠れたサブテーマとなっていた。

パリ・モーターショー2022は、開催規模こそ小さいものの、大変革を迎える自動車業界を鮮明に映し出したスナップショットであり、非常に興味をそそるものだった。タバレスCEOは前夜、フランスのマクロン大統領との夕食会で、欧州自動車産業の存亡の危機を伝えるメッセージをメディアに発信している。

マクロン大統領が自ら会場内を歩き回り、さまざまな展示に触れていたこと自体も、今年の目玉展示と言えるかもしれない。彼が最初に訪れたのは、フランス政府が投資しているルノーだ。大統領は投資状況を確認しながら、ルノーの新型車発表を目にしたことだろう。

ルノーの新型EV「4」のコンセプトモデルである4Everのスタイリングとポジションが、ルノー傘下のダチア車に似ていることを指摘する声は多く、これはダチアがいかに個性的なスタイルを切り開いてきたかを表す賛辞なのかもしれない。ダチアのコンセプトカー、マニフェストは、ブランドの未来を予感させるものだった。アルピーヌのブースでは、水素エンジン・コンセプトカーが未来に向けた「マニフェスト」を掲げている。

ステランティスの目玉展示の1つがジープだった。新型EVアベンジャーは、欧州向けに設計された電動のコンパクトSUVである。ジープはこれを「ゲームチェンジャー」と呼んでいるが、トレンドに沿ったものであることは間違いなく、これまでのモデルにあった荷物(CO2排出)もない。

プジョーは、ステランティスで最も大きな存在感を示していた。セダン、ハッチバック、クロスオーバーSUVをミックスした新型408が主役だったが、新たなコンセプトカー「インセプション」を今年後半に発表する計画を明らかにしたのである。プジョーには自信に満ち溢れた雰囲気があり、これからさらに成長しようという勢いが感じられた。

一方、ドイツのメルセデス・ベンツはショーには参加せず、新型EQE SUVのオンライン発表で大忙し。ルノーは昨年、BMWの本拠地ミュンヘンで開催されたモーターショーに参加したが、BMWからの恩返しはなかった。したがって、来年の9月にミュンヘン・モーターショーが開催されても、フランス企業の存在感はあまり期待できない。

ドイツ勢と日本勢が参加を見送った結果、残りのフロアは中国の自動車メーカーに委ねられることになった。長城汽車は昨年のミュンヘンと同様に、傘下ブランドのオーラ(Ora)とウェイ(Wey)を出展。欧州市場への本格参入は間違いなさそうだ。BYDは3台の新型EVを持ち込んだが、そのうちの1台はテスラモデル3のライバルと目されるコンパクトセダン、シールで、米国の巨人を打ち負かそうという気合に満ちている。

中国の自動車メーカーの製品は、年を追うごとに魅力を増していくが、その進化を間近で、しかも既存メーカーと比較しながら確認できるのがモーターショーである。ステランティスのタバレスCEOは、モーターショーに行かなくても中国メーカーの脅威を知ることができるだろうが、我々記者にとってモーターショーは、業界の変容を肌で感じられる「るつぼ」である。規模が小さくとも、その意義は健在であった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事