マクラーレンは、いかにしてミドシップの「GTカー」を作ったのか?

公開 : 2022.10.29 19:03

こう見えて乗り降りもスムーズ

しかもマクラーレン各車は、ラジエーターをエンジン脇に置いているので、フロントのラゲッジスペースも予想以上に広い。これもGTのネーミングに納得する部分のひとつだ。

近くに熱源がないので、食料品などはこちらに入れるといいかもしれない。

前後の荷室については、別の記事で詳しくみていこう。左下は、ドライブモードのスイッチ。パワートレインとハンドリングは個別のモードを選べるように、つまみを分けるのがマクラーレン式。
前後の荷室については、別の記事で詳しくみていこう。左下は、ドライブモードのスイッチ。パワートレインとハンドリングは個別のモードを選べるように、つまみを分けるのがマクラーレン式。    宮澤佳久

ドアは他のマクラーレンと同じ、やや外側に張り出しながら跳ね上がるディヘドラルタイプ。

ここもまたスーパーカーっぽい部分だが、サイドシルが前下がりでしかも奥にあるので、異例にアクセスしやすかった。

キャビンは横方向の余裕は全幅から予想するほどではなく、GTというよりスポーツカー的だ。

内装/シート/視界について

スリムなセンターコンソールをはじめ、仕立てはイタリア産スーパーカーと比べるとシンプル。クリームとネイビーのシックな2トーンカラーもまたイギリス車らしい。

シートは座面が低く傾きが強めで、背もたれは肩まで包み込むようにサポートするが、座り心地はガチガチではなく、予想以上にクッションが効いている。

電動調整式のヒーテッドコンフォートシート、Bowers&Wilkinsの12スピーカーオーディオ、電動開閉式のテールゲートは無償オプションで選べる。
電動調整式のヒーテッドコンフォートシート、Bowers&Wilkinsの12スピーカーオーディオ、電動開閉式のテールゲートは無償オプションで選べる。    宮澤佳久

視界は優れていて、低く長いノーズはスイッチで20mmリフトアップできるので、日常使いで不満を覚えることはなかった。

4L V8ツインターボエンジンは最高出力620ps、最大トルク64.2kg-mを発生する。

720Sおよび765LTの最高出力は車名が示しているとおりなので、それらよりチューニングは控えめということになる。

踏んでみる 3.2秒で100km/hへ

走りはじめて最初に感じたのは、回転数を問わず扱いやすいレスポンスを返してくること。

サウンドは英国車らしい低く太い音色だが、さほど強烈ではない。少し前に乗った720Sが、始動した瞬間から明確な鼓動をコクピットに伝えてきたのとは対照的だ。

マクラーレンGT(ルードゥス・ブルー)
マクラーレンGT(ルードゥス・ブルー)    宮澤佳久

最高速度326km/h、0-100km/h加速3.2秒を誇るだけあって、フルスロットルを与えればもちろん、1530kgのボディを鮮烈にダッシュさせる。

ただしこれも英国流と言うべきか、回すほどにドラマが訪れるようなキャラクターではないので、2000〜3000rpmあたりを使ってのクルージングも似合う。

もっとも驚いたのは乗り心地だ。姿からは想像できないほど快適なのである。

「スーパーカーで旅」が叶う1台

シートのおかげもあるだろうが、路面の感触をそのままカーボンファイバーモノコックに伝えるような720Sとは別世界であり、GTの名に恥じない。

逆にハンドリングは、GTであることを忘れさせてくれる。パワートレインを低い位置に縦置きしたミドシップというレイアウトどおり、公道で試せる範囲では模範的なマナーで、あふれるほどのパワーとトルクを安心して解き放てるし、自分でコントロールできる余地も残されている。

ドライサンプのV8に被さるように、長~い荷室を配置。それでもサイドビューはスーパーカー。静かにクルマを動かしたいときのために「静音始動」モードも用意された。
ドライサンプのV8に被さるように、長~い荷室を配置。それでもサイドビューはスーパーカー。静かにクルマを動かしたいときのために「静音始動」モードも用意された。    宮澤佳久

ドライブモードの切り替えがパワートレインとハンドリングを別々に選べるのは、720Sと共通。走りの感覚を大事にしたブランドだと感じる。

ミドシップながら直進安定性は抜群。同じイギリス生まれのB&Wのスピーカーが奏でるサウンドに耳を傾けつつ、長旅をともにしてみたいという思いが湧き上がる。

こんなGT、ほかにない。スーパーカーをルーツにグランドツーリングカーを作ったという独創的なコンセプトは、乗る者にも独自の世界観をもたらしてくれた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    森口将之

    Masayuki Moriguchi

    1962年生まれ。早稲田大学卒業後、自動車雑誌編集部を経てフリーランスジャーナリストとして独立。フランス車、スモールカー、SUVなどを得意とするが、ヒストリックカーから近未来の自動運転車まで幅広い分野を手がける。自動車のみならず道路、公共交通、まちづくりも積極的に取材しMaaSにも精通。著書に「パリ流環境社会への挑戦」(鹿島出版会)「MaaSで地方が変わる」(学芸出版社)など。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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