欠点を上回る魅力 アームストロング・シドレー・サファイア236 ライレー・パスファインダー 前編

公開 : 2022.11.19 07:05

ドーム型ルーフラインの古びたスタイリング

他方、アームストロング・シドレーにはパートナーが存在しなかった。1955年からの3年間に生産されたサファイアは1406台で、悲劇といえる数字だった。これには、4気筒エンジンの234が803台も含まれている。

最高速度はジャガーに並ぶ160km/h以上が主張され、スポーティな個性が強調されていた。それでも、ドーム型のルーフラインを持つ古びたスタイリングは、支持を集めるのに苦労した。ロンドン自動車ショーでの発表時点から、指摘された事実だった。

アームストロング・シドレー・サファイア236(1955〜1957年/英国仕様)
アームストロング・シドレー・サファイア236(1955〜1957年/英国仕様)

同社の上層部は、ジャガーとは異なる市場の反応に、失敗を予見したのかもしれない。サファイア234と236には専用の生産ラインが準備さなかったが、今後を見越した対応だったといえる。

戦時中に、アームストロング・シドレーは航空機用エンジンの生産で事業を拡大。戦後は自動車産業で生き残りをかけ、ひと回り大きいサファイア346とのペアでモデルラインナップを構成する、意欲的な試みではあった。

サファイア234や236には、技術者のW.O.ベントレー氏が1940年代に担当したプロジェクトとの関連性を見いだせる。ブレース材がクロスしたシャシー設計は、寸法を除いてベントレー・スポーツカー・プロトタイプのものに似ていた。

ボックスセクション・シャシーで、充分な最低地上高も得ていた。道路整備が遅れる植民地では、有用な設定だった。

ボディはロールス・ロイス開発のアルミ合金

コイルスプリングにウイッシュボーンという組み合わせのフロント・サスペンションと油圧ドラムブレーキ、リアアクスルなどはサファイア346に通じるもの。だが、ひと回り小さいサイズに合わせて再設計されていた。

ボディパネルにはロールス・ロイスの航空機部門が開発した、ヒドゥミニウムと呼ばれるアルミニウム合金を使用。バルクヘッドやインナーフェンダーにはスチール材を用い、軽量化を図ることでパワーウエイトレシオを改善させる狙いがあった。

ブルーのライレー・パスファインダーと、ホワイトのアームストロング・シドレー・サファイア236
ブルーのライレー・パスファインダーと、ホワイトのアームストロング・シドレー・サファイア236

ボディシェルの骨格に木材は用いられず、フェンダーはボルトで固定。インテリアには、本皮で仕立てられた346と差別化するように、ビニールレザーが用いられた。

エンジンは2.3Lの直列6気筒で、最高出力は86ps。最高速度は141km/hと、サファイア236はゆったり走るのが得意といえた。

ライレー・パスファインダーの設計を手掛けたのは、BMCでボディとシャシー技術者を務めていた、ジェラルド・パーマー氏。ジャガーMk VIIに伍する高性能サルーンとして1953年に発表され、生産は1954年にスタートしている。

ライレーRMシリーズには正確性で勝るラック・アンド・ピニオン式のステアリングラックが与えられたが、パスファインダーに載ったのは旧式なカム・アンド・ローラー式。当初は、Cシリーズと呼ばれた直列6気筒エンジンが検討されていたためだ。

しかし最終的には、ハイカムが組まれた2.5L直列4気筒エンジンが収まっている。サスペンションは、フロントにトーションバーを備えた独立懸架式を採用した。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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