欠点を上回る魅力 アームストロング・シドレー・サファイア236 ライレー・パスファインダー 後編
公開 : 2022.11.19 07:06
路上では充分活発なパスファインダー
1速に入れて発進し、レバーを倒し2速を選択。僅かにアクセルペダルを戻すと、クラッチがつながり変速が終了する。86psを発揮するオーバーヘッドバルブの直列6気筒エンジンが、滑らかな唸りを放ちながら速度を高めていく。
巡航時のサウンドは静かで、4速オーバードライブ時は110km/hでの巡航も快適。しかし、それ以上の速度で追い越しするには、かなり積極的にエンジンを働かせる必要がある。現代の交通のなかでは遥かに遅い。自然と防衛的に運転する術が身につく。
急な坂は、サファイア236が苦手とするもの。ボディは長く重く、操縦性に優れるとは表現できない。カーブではアンダーステアで外側に膨らむ。ステアリングホイールも重く、タイヤは軋む。
褒められる点は、まっすぐ安定してブレーキが効くこと。ボディロールは控えめで、乗り心地は優しく、ラグジュアリー・サルーンらしい。遠く離れた目的地まで、目指そうという気にはなれる。
パスファインダーへ乗り換えると、ステアリングホイールが軽く感触も確か。カーブでのアンダーステアも控えめだ。やや積極的に旋回させていけるが、ロックトゥロックは4回転とレシオはスロー。腕も積極的に動かす必要がある。
車重はサファイア236より300kg以上重いものの、ツインキャブで最高出力は112psある。ロングストロークで最大トルクも18.4kg-mと太く、路上では充分活発に思える。
欠点を上回る魅力に溢れる2台のサルーン
1950年代のクルマらしく、ドロドロと低音が強いノイズを響かせつつ、加速とともに音色の滑らかさも増していく。しかし、4速MTの変速フィールはいまいち。リンケージが曖昧で、何速を選べるかは運次第といっても良いかもしれない。
とはいえ、大体の速度域は3速でまかなえる。20km/hほど出ていれば、粘り強いエンジンを活用し4速でも構わない。なだらかな起伏が続く英国郊外の道を、パスファインダーは意欲的に走る。
英国人としてのノスタルジーを交えれば、2台の走りからは充足感が得られる。現代のクルマでは当然といえるものが欠けていても、アームストロング・シドレーとライレーそれぞれの個性が補い、それ以上の体験に浸れる。
クルマの運転には現代より多くの予測と判断、肉体的労働が求められたことを確認できる、サファイア236とパスファインダー。当時のドライバーは、今以上にドライバーらしかった。
1950年代のスポーツカーは、クラシックとして暖かく迎えられることが多い。しかし故エリザベス2世が女王の座に付いた時代のブリティッシュ・サルーンも、欠点を上回る魅力に溢れていた。