欠点を上回る魅力 アームストロング・シドレー・サファイア236 ライレー・パスファインダー 後編

公開 : 2022.11.19 07:06

路上では充分活発なパスファインダー

1速に入れて発進し、レバーを倒し2速を選択。僅かにアクセルペダルを戻すと、クラッチがつながり変速が終了する。86psを発揮するオーバーヘッドバルブの直列6気筒エンジンが、滑らかな唸りを放ちながら速度を高めていく。

巡航時のサウンドは静かで、4速オーバードライブ時は110km/hでの巡航も快適。しかし、それ以上の速度で追い越しするには、かなり積極的にエンジンを働かせる必要がある。現代の交通のなかでは遥かに遅い。自然と防衛的に運転する術が身につく。

ライレー・パスファインダー(1953〜1957年/英国仕様)
ライレー・パスファインダー(1953〜1957年/英国仕様)

急な坂は、サファイア236が苦手とするもの。ボディは長く重く、操縦性に優れるとは表現できない。カーブではアンダーステアで外側に膨らむ。ステアリングホイールも重く、タイヤは軋む。

褒められる点は、まっすぐ安定してブレーキが効くこと。ボディロールは控えめで、乗り心地は優しく、ラグジュアリー・サルーンらしい。遠く離れた目的地まで、目指そうという気にはなれる。

パスファインダーへ乗り換えると、ステアリングホイールが軽く感触も確か。カーブでのアンダーステアも控えめだ。やや積極的に旋回させていけるが、ロックトゥロックは4回転とレシオはスロー。腕も積極的に動かす必要がある。

車重はサファイア236より300kg以上重いものの、ツインキャブで最高出力は112psある。ロングストロークで最大トルクも18.4kg-mと太く、路上では充分活発に思える。

欠点を上回る魅力に溢れる2台のサルーン

1950年代のクルマらしく、ドロドロと低音が強いノイズを響かせつつ、加速とともに音色の滑らかさも増していく。しかし、4速MTの変速フィールはいまいち。リンケージが曖昧で、何速を選べるかは運次第といっても良いかもしれない。

とはいえ、大体の速度域は3速でまかなえる。20km/hほど出ていれば、粘り強いエンジンを活用し4速でも構わない。なだらかな起伏が続く英国郊外の道を、パスファインダーは意欲的に走る。

アームストロング・シドレー・サファイア236(1955〜1957年/英国仕様)
アームストロング・シドレー・サファイア236(1955〜1957年/英国仕様)

英国人としてのノスタルジーを交えれば、2台の走りからは充足感が得られる。現代のクルマでは当然といえるものが欠けていても、アームストロング・シドレーとライレーそれぞれの個性が補い、それ以上の体験に浸れる。

クルマの運転には現代より多くの予測と判断、肉体的労働が求められたことを確認できる、サファイア236とパスファインダー。当時のドライバーは、今以上にドライバーらしかった。

1950年代のスポーツカーは、クラシックとして暖かく迎えられることが多い。しかし故エリザベス2世が女王の座に付いた時代のブリティッシュ・サルーンも、欠点を上回る魅力に溢れていた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

欠点を上回る魅力 アームストロング・シドレー・サファイア236 ライレー・パスファインダーの前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事