課題山積み 電気自動車との付き合い方を考える 持続可能な社会目指す英国の事例
公開 : 2022.11.07 18:05
ライフサイクル全体が重要
しかし、これは20年後という少し遠い未来の話であり、今後数年の間に何が起こるかは、脱炭素化と2050年までのネット・ゼロ・カーボン達成を目指す英国政府の対応に影響を受けることになる。
現在、注目を集め始めているライフサイクルアセスメント(LCA)は、製造されたあらゆるものの炭素への影響を評価する方法であり、自動車ライフサイクルのあらゆる段階を考慮に入れている。コンサルティング会社リカルドは最近、パートナーであるE4tech社、ifeu(ドイツのエネルギー・環境研究所)とともに、EUの排出量政策の根拠となる情報を欧州委員会に提出するため、LCAに基づく大規模調査を完了したばかりである。
一方、英国政府の考え方は、依然として自動車の「使用段階」に偏っており(例えば、2030年までにすべての内燃機関を禁止する)、複雑な問題に対するアプローチとしては単純すぎるという指摘もある。その考え方が変われば、EVの普及スピードも変わるかもしれない。いずれにせよ、ある段階でのEVへの完全移行は、もはや避けられないだろう。
電動パワートレインが早晩、乗用車だけでなくタクシー、商用バン、一部のトラックやバスにも適用され、道路交通の基幹となることを考えると、持続可能な電力が不可欠である。もし、発電時に大量の温室効果ガスやNOxなどの規制対象の汚染物質が発生するようであれば、コンセプト自体が無益なものになってしまう。
大規模な洋上風力発電所
LCAに基づくと、自動車は持続可能なエネルギーで製造され、持続可能な燃料を供給し、最終的に持続可能な方法で廃棄されなければならない。温室効果ガスは、マフラーからであろうと工場の煙突からであろうと、排出されれば同じであり、EVに化石燃料で作られた電力を供給しては元も子もない。規制された排出を自動車から発電所に移すだけである。
しかし、英国では、状況は好転している。ジョークのネタにされることも多いが、持続可能な電力の生産量は急速に増加しており、2019年は風力発電(オンショア、オフショア含む)、太陽光、植物バイオマス、水力などが化石燃料を上回る、記録的な年になった。
2020年第1四半期には、英国の総電力の47.8%が再生可能エネルギーにより賄われ、第2四半期も44.6%と同様の結果に。しかし、2021年になると生産量は減少し、同年第2四半期には37.3%と、7.2%も減少している。英国政府は2030年までに、洋上風力発電を現在の10GWから40GWに増やす(英国の全家庭の電力を賄える量)など、二酸化炭素排出量を削減する野心的な計画を立てているが、これに水を差された形だ。