小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編

公開 : 2022.11.20 07:05

全体的な容姿の違いは限定的

ユニット自体はDB7にも採用されていたもので、ジャガー由来のV8エンジンより約70kg重い。その結果、前後の重量配分は51:49と、V8ヴァンテージと比べると2%フロント側が増えた。

一方で鍛造アルミホイールやカーボンセラミック・ブレーキディスクを採用するなど、軽量化にも抜かりはなかった。最高出力517psに対し、最終的な車重はDB9より30kg軽い1680kgへ収めている。

アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ(2009〜2013年/英国仕様)

ダイエットの成果としては限定的なものの、ホイールベースは約140mm短く、全長は約330mm短い。より躍動的な能力が与えられていた。

サスペンションのスプリングはフロントが80%、リアが45%も引き締められ、アーム類などは新設計。V8ヴァンテージ N24と呼ばれるレーシングカーから派生したエアロキットを採用し、空力特性も磨かれた。

テールゲート上のリアウイングは大型化され、240km/hでの走行時に発生するダウンフォースを2倍以上に増加。カーボンファイバー製ボンネットには冷却用のエアアウトレットが4か所に設けられた。

とはいえ、全体的な容姿の違いはさほど大きくない。最高速度305km/hの超高性能なFRクーペだが、知らなければベースのV8ヴァンテージと混同する可能性もあるだろう。

さらにアグレッシブさを増した「S」

このV12ヴァンテージを一層アグレッシブに仕上げたのが「S」。V12エンジンの排気量は5935ccと変わらないが、最高出力を55ps、最大トルクを5.1kg-m増強。7速セミ・オートマティックが組み合わされ、専用のアルミホイールを履いた。

ステアリングレシオはクイックになり、ダンパーはビルシュタイン社のアダプティブ・タイプを採用。特別な配色のフロントグリルとブレーキキャリパー、ドアミラー・カバーがオプションで設定され、従来のV12ヴァンテージとの差別化も可能だった。

アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)
アストン マーティンV12ヴァンテージ S(2013〜2018年/英国仕様)

今回ご登場願ったブラックのクルマの場合は、鮮烈なイエローに塗り分けられている。通常のV8ヴァンテージの英国価格は8万5000ポンドだったが、V12のSでは13万8000ポンドへ跳ね上がった。最高速度も329km/hへ上昇した。

V12ヴァンテージのインテリアは、最上級の居心地を叶えていた。シルバーのドアを開けば、スムーズでモダンなデザインを包み込む、高品質なレザーの香りが嗅覚を刺激する。

じっくり観察すると、フォード由来のスイッチ類なども嗅ぎ取れるが、雰囲気を乱すほどではない。職人が丁寧に仕立てたレザー張りのダッシュボードと、工芸品のように美しいメーター、形状が煮詰められたバケットシートで車内は支配されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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