小さなボディに大きなエンジン アストン マーティンV12ヴァンテージ 全身の感覚が覚醒する 前編
公開 : 2022.11.20 07:05
全体的な容姿の違いは限定的
ユニット自体はDB7にも採用されていたもので、ジャガー由来のV8エンジンより約70kg重い。その結果、前後の重量配分は51:49と、V8ヴァンテージと比べると2%フロント側が増えた。
一方で鍛造アルミホイールやカーボンセラミック・ブレーキディスクを採用するなど、軽量化にも抜かりはなかった。最高出力517psに対し、最終的な車重はDB9より30kg軽い1680kgへ収めている。
ダイエットの成果としては限定的なものの、ホイールベースは約140mm短く、全長は約330mm短い。より躍動的な能力が与えられていた。
サスペンションのスプリングはフロントが80%、リアが45%も引き締められ、アーム類などは新設計。V8ヴァンテージ N24と呼ばれるレーシングカーから派生したエアロキットを採用し、空力特性も磨かれた。
テールゲート上のリアウイングは大型化され、240km/hでの走行時に発生するダウンフォースを2倍以上に増加。カーボンファイバー製ボンネットには冷却用のエアアウトレットが4か所に設けられた。
とはいえ、全体的な容姿の違いはさほど大きくない。最高速度305km/hの超高性能なFRクーペだが、知らなければベースのV8ヴァンテージと混同する可能性もあるだろう。
さらにアグレッシブさを増した「S」
このV12ヴァンテージを一層アグレッシブに仕上げたのが「S」。V12エンジンの排気量は5935ccと変わらないが、最高出力を55ps、最大トルクを5.1kg-m増強。7速セミ・オートマティックが組み合わされ、専用のアルミホイールを履いた。
ステアリングレシオはクイックになり、ダンパーはビルシュタイン社のアダプティブ・タイプを採用。特別な配色のフロントグリルとブレーキキャリパー、ドアミラー・カバーがオプションで設定され、従来のV12ヴァンテージとの差別化も可能だった。
今回ご登場願ったブラックのクルマの場合は、鮮烈なイエローに塗り分けられている。通常のV8ヴァンテージの英国価格は8万5000ポンドだったが、V12のSでは13万8000ポンドへ跳ね上がった。最高速度も329km/hへ上昇した。
V12ヴァンテージのインテリアは、最上級の居心地を叶えていた。シルバーのドアを開けば、スムーズでモダンなデザインを包み込む、高品質なレザーの香りが嗅覚を刺激する。
じっくり観察すると、フォード由来のスイッチ類なども嗅ぎ取れるが、雰囲気を乱すほどではない。職人が丁寧に仕立てたレザー張りのダッシュボードと、工芸品のように美しいメーター、形状が煮詰められたバケットシートで車内は支配されている。