£30,000(520万円)前後で買えるベスト・ドライバーズ・カーは?
公開 : 2014.08.27 23:50 更新 : 2017.05.29 19:48
’楽しみ’ とは一口に言えども、人それぞれの趣向があることはご存知のとおり。ある人はホラー映画が好きだったり、あるいはジェットコースターだったり。中にはチーズのカビの生え具合にこだわりがあったり、プルーストの作品に傾倒していたり。もしかするとフェルマーの最終定理を暗記するほど読み込む人だっているかもしれない。
ことクルマに関しては、特に熱狂的なファンのあいだでは、’楽しさ’ には定説のようなものがあると言っていい。相対的な運動能力や、パワー・デリバリーのマナー、ステアリングの与える感触や、タイヤのグリップ、またそれらが巧く協調しあっているかなどが楽しさを調べる言わば ’メートル原器’ だ。
そうは言っても、あなたの生活環境やクルマのコンディション、道路の状態などによってもスケールは異なってくるのも事実。それにエンターテイメント性と実用性の駆け引きだって重要だ。厳密に見ていけば、楽しさの種類だって無数にある。
そこでわれわれは、形や使用用途に拘らず、真の楽しみを与えてくれそうなクルマを集めてみることにした。しかしこれだけでは、たくさんの候補が挙がってしまうため、四捨五入すると500万円程度になる現実的な価格帯から選ぶことにした。
選別にもっとも注意した点は、機能性と楽しさがうまくバランスしているかを見極めることだ。地形や天候に左右されず、またシンプルに心を揺さぶるクルマたちを並べてみたつもりである。
その際、他の比較テストと違い、スペックの相違はあまり重要視せず、これまでの個別テストでの評価に拘らずに候補を上げてみることにした。まさに全車のキャラクターはバラバラ。乗ってみることによって、やがて結果が見えてくるというあくまで楽観的な考えである。
まずはじめに候補に挙げたのはフォード・フォーカスST-3エステート。価格は£26,595(460万円)。この価格帯の中で最も走ることができ、ボルボV70と直接的なライバルにあたるクルマでもある。
次にフォルクスワーゲン・ゴルフR。諸元を見る限り、フォーカスほど繊細ではなさそうだが、実用的なハッチバックでありながらもかなりの速さを誇る1台だ。気になる価格はMTで£29,990(516万円)。今回連れだしたDSGのモデルは£31,315(540万円)となる。
550万円台に差し掛かるゴルフなんて高すぎやしないか、とお思いの読者もいらっしゃるかもしれないが、事実、価格以上の能力があることは予め伝えておこう。
バーゲン・セールとも言えるスバルBRZも連れだした。テスト車両はトータルで£26,495(460万円)くらいのものを期待していたのだが、思ったよりも安く済み、最終的な価格は何とも魅力的な£23,995(413万円)となった。
ドライバーズカーといえば、ロータス・エリーゼも忘れてはおけない。これに乗ってショッピングに行くには難しいけれど、比較する価値は大いにアリ。対象としては1.6ℓのスポーツが£29,900(515万円)と完璧ではあるが、ロータスが用意できたのは£35,600(613万円)のスーパーチャージャー付きクラブ・レーサーのみ。やや高価になってしまったが致し方ない。
特別な技術を用いる事なく動力性能を引き出し、研ぎ澄まされたハンドリングを兼ね備えている点で、エリーゼは有力な候補と言えそうだ。
最後に、お金で買うことができ、一応ナンバープレートもついているけれど最も異端なクルマも用意してみた。アリエル・アトムだ。最も安価に購入できる248psのモデルで、LSDをオプションで選択すれば(メーカー曰く必須)、車両価格は£32,100(553万円)になる。
もちろん全ての候補車両を、通勤路で使ったり、ショッピングに連れだしたり、(乗せられるクルマには)子どもを乗せてみたりもした。実用性の観点で言えば、どの車両も大方予想の範疇内だったと言っていい。
予想と違ったのはフォーカスST-3だった。テスト前の時点では、そこそこ速いワゴン車か、ルックスに特化した特に面白みのないワゴン車なのだろうくらいに思っていたのだが、実用性はもちろんのこと、乗り味や楽しさの両方をきちんと高いレベルでクリアしていることがわかった。
繊細なアクセル操作だけでも、250psの出力を発生させることを思い出させてくれ、優れたレスポンスをもってエンジンの持ちうる限りの能力を引き出すことができるのは嬉しい。平均的な小排気量の4気筒ターボ・エンジンとは一線を画するものがあるのだ。
フォードはエンジン・パワーを最大限に引き出すよう努力をしたと言っているが、われわれに言わせてみればそんなものはただの一面に過ぎず、ステアリングを動かして転舵を試みれば、総合的に見てもかなり高いレベルにあることが見て取れる。
リアのスタビライザーの影響もあって後方の挙動も引き締まり、このサイズのクルマからは想像もできない敏捷性とエンターテイメント性を両立させている。これだけ楽しければ、時に手に負えない動きをしたとしても許してあげられると思うほどの仕上がりであった。