ネオクラV8サルーン BMW M5 メルセデスE 55 AMG ジャガーSタイプ R マセラティ・クアトロポルテ 4台比較 後編

公開 : 2022.12.11 07:07

ミレニアム時代に各社から出揃ったV8エンジンの高性能サルーン。英国編集部が4台ヘ試乗し、各個性を振り返りました。

ドライビング体験で勝るSタイプ R

ドライビング体験でいえば、メルセデスE 55 AMGよりジャガーSタイプ Rの方が遥かにベター。サスペンションは完璧に磨き込まれ、路面からの隔離性を維持しつつグリップは甚大だ。

シャシーバランスに優れ、操縦性のニュートラルさはBMW M5に迫る。ステアリングホイールは軽く、フィードバックは豊か。その反面、2枚のペダルは軽すぎる。4台では最もボディサイズが大きく、車重もかさむ。

ジャガーSタイプ R(1999〜2007年/英国仕様)
ジャガーSタイプ R(1999〜2007年/英国仕様)

運転姿勢はスポーツクーペのXK8並みに低い。ダッシュボードにはダークトーンのウォールナット・トリムが光り、スポーティでありながらクラシカル。

そんな雰囲気は、ボンネットから響くスーパーチャージャーの唸りによって強調される。ブロワーの特性を活かし、1300rpmから42.7kg-mのトルクを発揮し、キックダウンを誘えばE 55 AMGですら一時的に取り残すほどの瞬発力を見せつける。

XJRが搭載したメルセデス由来の古いATから、ZF社の新しい6速ATへ変更したのは賢明な判断だった。ジャガー特有のJゲートを倒せば、マニュアルモードで変速しやすい。圧倒的なトルク感で、スポーツモードのDにお任せでも不満は微塵もない。

高性能サルーンとしての主張は、シートに施されたレッドのステッチと、暗い色調の内装によって醸し出されている。細部まで一貫した製造品質を持つ、ドイツ水準には届いていないけれど。

スイッチ類のソリッド感は薄く、グローブボックスの開閉やアームレストがスライドする動作には、リンカーンの匂いが漂う。当時は同じフォード傘下にあった。

速度が増すほど流暢に運転できる

転じてマセラティクアトロポルテの車内には、うかつに飲み物を持ち込みにくい風情がある。運転席はクルマを操る場所に違いないものの、コノリー・レザーとニレのウッドパネル、アルカンターラというコーディネートのインテリアを堪能する場所でもある。

当時の上級なイタリア車らしいのは、ドライビングポジションにも共通する。シートポジションは高めで、高身長のドライバーはステアリングコラムに膝を当ててしまいそうだ。

マセラティ・クアトロポルテ IV(AM337/1994〜2001年/英国仕様)
マセラティ・クアトロポルテ IV(AM337/1994〜2001年/英国仕様)

E39型のBMW M5と比べると、6速MTのシフトレバーは圧倒的に重い。クラッチペダルの扱いも難しい。キーを捻ると、V8エンジンがエネルギッシュな存在感で目を覚ます。発進すると乗り心地は硬めで、操縦系のすべてが重く運転しやすいとはいえない。

2基のターボは、3000rpmを超えると急速に過給圧が高まりパワーを一気に放つ。右足の力加減には注意も必要となる。

前方が開け、我慢できずにアクセルペダルをバルクヘッド目掛けて押し倒す。クアトロポルテは勇ましく加速し始め、シフトアップの度にウェイストゲート・バルブが鳴く。速度が増すほど、流暢に運転できるようになる。

シフトレバーは小気味よく動き、ステアリングホイールは軽く転じていく。一定のフィードバックも伝わるようになる。コーナリング中にアクセルペダルを加減すると、ニュートラルなバランスを感じる。

同時に、鋭いエッジで限界領域が待っている印象も漂う。上質な内装で覆い隠された個性は、丸みを帯びてはいない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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