ネオクラV8サルーン BMW M5 メルセデスE 55 AMG ジャガーSタイプ R マセラティ・クアトロポルテ 4台比較 後編
公開 : 2022.12.11 07:07
ミレニアム時代に各社から出揃ったV8エンジンの高性能サルーン。英国編集部が4台ヘ試乗し、各個性を振り返りました。
ドライビング体験で勝るSタイプ R
ドライビング体験でいえば、メルセデスE 55 AMGよりジャガーSタイプ Rの方が遥かにベター。サスペンションは完璧に磨き込まれ、路面からの隔離性を維持しつつグリップは甚大だ。
シャシーバランスに優れ、操縦性のニュートラルさはBMW M5に迫る。ステアリングホイールは軽く、フィードバックは豊か。その反面、2枚のペダルは軽すぎる。4台では最もボディサイズが大きく、車重もかさむ。
運転姿勢はスポーツクーペのXK8並みに低い。ダッシュボードにはダークトーンのウォールナット・トリムが光り、スポーティでありながらクラシカル。
そんな雰囲気は、ボンネットから響くスーパーチャージャーの唸りによって強調される。ブロワーの特性を活かし、1300rpmから42.7kg-mのトルクを発揮し、キックダウンを誘えばE 55 AMGですら一時的に取り残すほどの瞬発力を見せつける。
XJRが搭載したメルセデス由来の古いATから、ZF社の新しい6速ATへ変更したのは賢明な判断だった。ジャガー特有のJゲートを倒せば、マニュアルモードで変速しやすい。圧倒的なトルク感で、スポーツモードのDにお任せでも不満は微塵もない。
高性能サルーンとしての主張は、シートに施されたレッドのステッチと、暗い色調の内装によって醸し出されている。細部まで一貫した製造品質を持つ、ドイツ水準には届いていないけれど。
スイッチ類のソリッド感は薄く、グローブボックスの開閉やアームレストがスライドする動作には、リンカーンの匂いが漂う。当時は同じフォード傘下にあった。
速度が増すほど流暢に運転できる
転じてマセラティ・クアトロポルテの車内には、うかつに飲み物を持ち込みにくい風情がある。運転席はクルマを操る場所に違いないものの、コノリー・レザーとニレのウッドパネル、アルカンターラというコーディネートのインテリアを堪能する場所でもある。
当時の上級なイタリア車らしいのは、ドライビングポジションにも共通する。シートポジションは高めで、高身長のドライバーはステアリングコラムに膝を当ててしまいそうだ。
E39型のBMW M5と比べると、6速MTのシフトレバーは圧倒的に重い。クラッチペダルの扱いも難しい。キーを捻ると、V8エンジンがエネルギッシュな存在感で目を覚ます。発進すると乗り心地は硬めで、操縦系のすべてが重く運転しやすいとはいえない。
2基のターボは、3000rpmを超えると急速に過給圧が高まりパワーを一気に放つ。右足の力加減には注意も必要となる。
前方が開け、我慢できずにアクセルペダルをバルクヘッド目掛けて押し倒す。クアトロポルテは勇ましく加速し始め、シフトアップの度にウェイストゲート・バルブが鳴く。速度が増すほど、流暢に運転できるようになる。
シフトレバーは小気味よく動き、ステアリングホイールは軽く転じていく。一定のフィードバックも伝わるようになる。コーナリング中にアクセルペダルを加減すると、ニュートラルなバランスを感じる。
同時に、鋭いエッジで限界領域が待っている印象も漂う。上質な内装で覆い隠された個性は、丸みを帯びてはいない。