ボディ・ロールはごくわずか。4WDシステムはいかなる外乱を物ともしないような落ち着きを維持し続ける。これならばアクセルを早めに踏んでも良さそうだ、という甘美な囁きが脳裏をよぎる。ただし注意すべくは既にその時点でケイマンの車速の遥か上を行っているということ。不用意なアクセルの踏み方をすると、闘牛は暴れ始める。トラクション・コントロールをオフにすれば、たちまち手に負えない状態に陥るので注意が必要だ。

起伏が激しい路面では、下からの突き上げが目立つ機会が増える。ケイマンのセットアップがいかに優れるかがわかる瞬間である。しかしながら、以前油圧システムによって制御されるステアリングを批判したことがあったけれど、ケイマンのどこか退屈な電制ステアリングに比べるとやはり味があると感じた。

先ほどはとにかく煩いと書いた。しかし意外や意外、高速走行時はケイマンとあまり差がないくらいに静かだった。それに四方の視界は驚くほど確保されているし、小回りも効く。旅行に必要なサイズの荷室は無いに等しいけれど、ステアリングの軽さも実用に向いていると思えた。

CO2排出量に依存する英国の税金制度ではもちろんケイマンに比肩するほどの価格を期待することはできないが、ランニングコストそのものはさほど変わらない。このガヤルドの場合、£1,680(29万円)で1年毎か、あるいは£600(10万円)で1万2千km毎に点検サービスもついてくるのも心強い。

ケイマンの場合は£480(8万3千円)から£610(10万5千円)くらいで2年毎か3万2千km毎にポルシェ・センターで点検を受けることができる。いずれも英国の話ではあるが参考になるはずだ。

最後に、どちらが「買い」か？である。ケイマンSは市街地から山道までを高レベルでこなすことのできるオールラウンダーであることは先述のとおり。しかしオプション価格の高さを考慮すれば、£40,000(691万)以下で購入することのできる素のケイマンでも充分に運転技術を磨くことはできる。

スポーツカーに何を求めるかによって大いに結果は変わってくるが、週末限定の甘いひと時を楽しみたいならば筆者は迷うことなくガヤルドを推す。このクルマの与えてくれるスリルには一種の依存性があるし、何よりアウディのエッセンスが加えられることによって頑強である点もこのクルマの長所だ。

維持費を心配する読者諸兄にも朗報。初期型のガヤルドはあなたが思うほど実はお金が掛からないのだ。

成熟期を迎えたスリリングなガヤルドか。いつでもどこでも愉しめるケイマンか。次はあなたが大いに悩む番だ。

(リチャード・ウェーバー)