創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 後編
公開 : 2022.12.18 11:00 更新 : 2024.08.16 16:27
2例だけ試作された、オースチン・ヒーレー100Sのクーペ。創業者が愛情を込めた1台を、英国編集部がご紹介します。
オリジナルはブラックとレッドのツートーン
「以前、100S用のスペアパーツを大量に購入する機会がありました。部品が目当てで、前のオーナーから毎年のように電話をもらっていたんです。ある時、ヘッドガスケットを買おうとしていた彼が口にしたんです。クルマを買わないかと」
「もちろん、買いました」。オースチン・ヒーレー100S クーペのオーナー、アーサー・カーター氏が振り返る。ONX 113のナンバーで登録されたワンオフ・ボディは、オリジナルではブラックとレッドのツートーンに塗られていたという。
「ブラックのルーフが好きではなく、すべてレッドに塗装しています。ブラックだと、ハードトップが載っているように見えたんです。でも、スタイリングを手掛けたデザイナーのジェリー・コーカーさんに見せたら、ツートーンの方が好みだったようです」
美しいスタイリングを生み出したジェリーの意見に反対するつもりはないが、筆者もレッド1色の方が見栄えすると思う。コレクターとして熱意も知識も半端ない彼が話す通り、まとまりのある容姿に仕上がっている。
弧を描くルーフがテールエンドと一体になったボディこそ、この100Sの魅力の中心だといっていい。全体的には馴染みのあるフォルムで、モデル名もすぐに思い浮かぶ。だが、明らかに他とは異なる。オースチン・ヒーレーを知っていると、一瞬戸惑う。
非常に美しいプロポーション
間に合せで、ハードトップを溶接したようなクーペとは異なる。丁寧に仕上げられ、プロポーションは非常に美しい。リアのクオーターガラスが、筋肉質に膨らんだリアフェンダーの上へ端正に収まる。ルーフラインが呼応するようにカーブする。
固定ルーフのMGAにも通じる雰囲気がある。しかし、ひと回り大きく、よりスポーティ。真後ろから眺めると、トランクリッドが少々大きすぎるかもしれない。
「クーペのスタイリングを考案するにあたって、ソフトトップとサイドカーテン以上の安全性も得ています。スライド式のサイドウインドウは内側からロックでき、ロードスターのように車内のプルワイヤーが掴めません」
「そのため、当初はなかったドアハンドルが内外に装備されています。ドアロックも、約10年後に登場した3000スポーツ・コンバーチブルまで、オースチン・ヒーレーの量産モデルには与えられていませんでした」。とカーターが説明する。
「クーペではサスペンションのストロークを長くするため、シャシーのリア側に改良が施されています。これが量産モデルへ展開されたのは、1964年5月の3000 Mk5になってからでした」
車内を覗くと、アップライトなバケットシートに細身のステアリングホイール、トランスミッション・トンネルの奥から伸びるシフトレバーなど、オースチン・ヒーレー100の特徴は変わらない。加えて、経過した時間の風情が漂っている。
「インテリアはきれいに掃除した程度です」。レストアされ真新しい内装とは異なる、趣きが好ましい。