創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 後編

公開 : 2022.12.18 11:00  更新 : 2024.08.16 16:27

ロードマナーに影響を与えるクーペボディ

「わたしが経営する農場のメカニックの助けを借りて、エンジンはリビルドしています。作業はとても楽しかったです。走りは、ノーマルの100Sほどバランスが良いとは思いませんでした。少し重い感じがするんですよ」

カーターの印象には一理ある。多くの点で、クーペボディがロードマナーに影響を与えている。通常のロードスターよりボディ剛性は遥かに高い。公道を飛ばしても、乱雑な振動が伝わってくることはない。乗り心地も良いようだ。

オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)
オースチンヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)

車内は、気温が上昇しなければ快適。オースチン・ヒーレーを運転した経験を持ちなら、エンジンの熱ですぐに車内が暖かくなることをご存知かもしれない。クーペだから、その熱がこもる。

2660cc 4気筒エンジンの最高出力は、142ps以上はないと考えられている。それでも勇ましいノイズを放ち、積極的に回転する。

トランスミッションは、マイナーチェンジ後のBN2型用4速マニュアルが載っている。シフトレバーのストロークが長い。ファイナル比は3.66:1で、オプションだったショートサーキットやヒルクライム用のデフが組んである。

大きな排気量を活かし加速は力強く、4000rpmまで一気呵成に吹け上がる。ドライバー横のサイド排気で、オーバーラン時の破裂音が鮮烈に耳に届く。

大きな愛情を抱いていた創業者

100S クーペを購入後、カーターはヒーレー・モーター社を創業したドナルド・ヒーレー氏ご本人を訪問した。買い戻したいと提案されたそうだが、丁重にお断りしたという。しかし、それから数10年が経過し、そろそろ潮時だと考えている。

「100S クーペは滅多に姿を表すことがなく、それが神秘性を高めていますね。スタイリングと、創業者が所有していたという歴史で、ヒーレー・ファンを越えた魅力を放っているようです」

オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)
オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)

「とてもハンサムなクルマですし、メーカーのスペシャル・テスト・カーの1台だったという付加価値もあります。部品だけでも貴重といえるでしょう」

「ドナルドさんは、このクルマに抱いていた愛情を話してくれました。どのオースチン・ヒーレーより、運転を楽しんでいたように受け取りました。量産化されなかったことは、とても残念な結果でしたね」

ドナルドも、かつての愛車が公道を再び元気に走ることを望んでいるはず。ペランポースまでの道を思い切り楽しむことこそ、オースチン・ヒーレー100S クーペの次期オーナーにとって、最高の堪能方法だといえる。

協力:ジョー・ジャリック氏、ボナムズ・オークション、アーサー・カーター氏、ピーター・ヒーリー氏
撮影:マルコム・グリフィス氏

※この記事は2015年12月に執筆されたものです。2015年12月6月に開催されたオークションで、63万9900ポンドという高値で落札されました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームズ・ページ

    James Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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