上品な専用ボディの2ドアクーペ オペル・マンタ A フォード・カプリに対抗 後編

公開 : 2023.01.01 07:06

欧州大陸を高速で疾走するタイプではない

紅白2台のマンタは、デザインされたスチール・ホイールを履く。ダッシュボードのフェイクウッド・パネルも共通。レブカウンターは備わらない。

ホワイトのスウィンジャー仕様には3速ATが組まれ、鮮やかなレッドのクロス内装がボディと印象的なコントラストを生んでいる。細身のシートにはヘッドレストが付き、想像した以上に座り心地に優れる。

オペル・マンタ A 1900(1970〜1975年/欧州仕様)
オペル・マンタ A 1900(1970〜1975年/欧州仕様)

ドアの内張りは、バーガンディのベルリネッタよりシンプル。ウッドパネルも、ビロードのようなクロスも用いられていない。ヒーターの操作パネルは、ステアリングコラムの根本にある。

ステアリングホイールは、艶のある樹脂製。当時の多くのオペル・モデルで登用されたアイテムだ。他方、ベルリネッタにはリムの太いスポーツ・ステアリングが組まれている。運転席に座ると、太いCピラーが作る死角はさほど大きくないことに気づく。

発進すれば、ギア比が低いことと相まって、回転数を高めたエンジンから振動が目立ちだす。マンタは、欧州大陸を高速で疾走するタイプではない。アウトバーンの追い越し車線も、定位置とはいえないだろう。

それでも、乗り心地には適度な硬さがあり、走りは小気味いい。高速域での風切り音やロードノイズも控えめだ。競争力の高い価格で、有能なパーソナルカーとして50年前には支持を集めた理由がうかがえる。

手に届く範囲でクーペの夢を現実に

ベルリネッタには扱いやすいクラッチと、正確に動くシフトレバーが付いている。不足ないトルクを活かし、キビキビとシフトアップしながら滑らかに加速できる。エンジンから耳障りなノイズが放たれるものの、3速で引っ張れば130km/h近くまで出せる。

3速ATも積極的にキックダウンするから、スウィンジャーのマンタも元気に走る。とはいえギアの枚数が少なく、優れたシャシーの能力を引き出すことは難しい。

オペル・マンタ A 1900(1970〜1975年/欧州仕様)
オペル・マンタ A 1900(1970〜1975年/欧州仕様)

2台ともコーナーでは穏やかなアンダーステア傾向で、ドライバーの不安をあおることはない。ロックトゥロックが4.1回転という数字から想像するより、ステアリングはレスポンスに優れる。

サスペンションの減衰力がボディをなだめ、基本的にマンタは安全志向。トリッキーなマナーはない。

2代目のマンタ Bはラリーで活躍したが、基本的なメカニズムで共通するマンタ Aからは、その予兆を感じる。トラディショナルな設計を施しながら、意欲的な素地を宿していることを匂わせる。

1970年代は、落ち着いた雰囲気のサルーンも優れた操縦性を備えることが理解されていた。アスコナの兄弟といえるマンタも、悪くない仕上がりになって不思議ではなかった。

高度な設計による上級クーペで、ランチアアルファ・ロメオBMWはブランドの地位を築いている。一方のオペルは、手に届く価格で夢を現実のものにしてくれた。走りは穏やかだったとしても、市民の味方のクーペだった。

協力:オペル・ミュージアム

オペル・マンタ A 1900(1970〜1975年/欧州仕様)のスペック

英国価格:1474ポンド(新車時)/1万5000ポンド(約298万円)以下(現在)
販売台数:49万8553台(合計)
全長:4293mm
全幅:1626mm
全高:1359mm
最高速度:168km/h
0-97km/h加速:12.2秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:958kg
パワートレイン:直列4気筒1897cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:91ps/5100rpm
最大トルク:14.9kg-m/2800rpm
ギアボックス:4速マニュアル/3速オートマティック

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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