ザガートの斬新デザイン ランチア・フルビア・スポルト アルファ・ロメオ・ジュニア Z 後編

公開 : 2022.12.25 07:06

精巧な時計のように回るV型4気筒

ダッシュボードには、電動で浮くリアハッチのボタンがある。夏場には風を流せるが、知らない隣のドライバーが半開きだと教えてくれる時もあるらしい。

ジュニア Zの内装は、フルビア・スポルト 1600に似ている。基本的な構造やドアハンドルなどを共有するためだ。上品に仕立てられているが、ベーシックでもある。

アルファ・ロメオ・ジュニア・ザガート(1969〜1975年/欧州仕様)
アルファ・ロメオ・ジュニア・ザガート(1969〜1975年/欧州仕様)

サイドウインドウは手動。ダッシュボードのカウルはフロントグリルに呼応したカタチだが、全体的に作りが甘い。着座位置は低く、足を伸ばす格好になる。シフトレバーがほぼ水平に突き出ている。ランチアの方が居心地はいい。

エンジンを目覚めさせると、フルビア・スポルト 1600のV型4気筒が精巧な時計のように滑らかに回る。4000rpmから5000rpmという高回転域の常用もいとわない。1速が横に出た、ドッグレッグパターンのシフトレバーも軽快だ。

防音処理が効いていて、余計なノイズは聞こえてこない。心地良い吸気ノイズも消してしまう。リアハッチを浮かせれば、ザラついた排気音がガラスに反射して響く。

リア・サスペンションは、リジットアクスルにリーフスプリングという簡素な仕様。スポルトという名とは裏腹に、減衰力特性は快適志向にある。フルビア・ラリー1.6 HFと同じエンジンでも、ダイナミックさは程々。グランドツアラー寄りにある。

カーブを攻めても、ボディロールは抑えられている。ロードホールディング性は素晴らしい。フロントに4ポッド、リアに2ポッドのキャリパーを備えるブレーキが、強力に速度を熱へ変換する。パッケージングの完成度は高い。

クラシックカーとして魅力のスタイリング

ジュニア Zはクラシカルなスポーツカー・ライク。低速域では若干刺激に欠けるが、ペダルを踏み込むとツインカム・ユニットが活気を取り戻す。クックのクルマは1750ccへ載せ替えられているから、トルクも明確に太い。

特に中回転域でたくましく、防音処理が薄い車内へノイズが充満する。低いドライビングポジションも、気持ちを高ぶらせる。ステアリングホイールの重み付けは、完璧といっていい。

アルファ・ロメオ・ジュニア・ザガート(1969〜1975年/欧州仕様)
アルファ・ロメオ・ジュニア・ザガート(1969〜1975年/欧州仕様)

ドライビング体験は、フルビア・スポルト 1600よりエキサイティング。感覚的な訴求力が強い。より正確に操縦できるものの、乗り心地は多少劣る。前衛的な見た目とは一致しない。

ジュニア Zは、少し詰めが甘いスポーツカーのよう。フルビア・スポルト 1600は優れたドライバーズカーで、親しみやすさもある。個性は違っているものの、そこから得られる心象はさほど大きく違わないのが面白い。

この2台で焦点が向けられてきたのは、当初からそのスタイリングだった。誕生から半世紀以上が過ぎた今でも、それは変わらない。従来的で魅力的なボディをまとった兄弟モデルと、常に比較される立場にあった。

だとしても、風変わりなデザインはクラシックカーとしての強い魅力を醸成している。筆者としては、より特徴的なジュニア Zへ惹かれてしまう。

新車当時から、類まれなイタリア車として多くの視線を集めてきた2台。現在では、その存在感は100倍くらい強いように思う。

※この記事は2014年11月に執筆されたものです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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