目的地は北の果て ポールスター2でシェトランド諸島へ 上品なEVホットハッチ 前編

公開 : 2022.12.24 09:45

すこぶる上品なホットハッチのよう

諸島最大のメインランド島から、2番目に大きなイェル島へ向けて走る。島を貫く国道、A970号線が大地を左右に分ける。地面は低木と草に覆われ、背の高い樹木はまったく見えない。

諸島は古くから化石燃料が豊富だった。かつては泥炭が採れていたが、現在は北海や大西洋に点在する油田から原油とガスがパイプラインで送られている。北部のスロムヴォーにはコンビナートがあり、石油発電所も稼働している。

ポールスター2(英国仕様)
ポールスター2(英国仕様)

再生可能エネルギーへのシフトも進行中。103基の風力発電用風車が建設中で、すべて完成すれば50万世帯の電力をまかなえるという。グレートブリテン島へ、海底の高圧ケーブルで電気が送られる予定だ。

建設現場の横を走るポールスターは至って順調。インフォテインメント・システムのグーグルマップは、駆動用バッテリーの残量にも連動している。イェル島のフェリー港にある充電器を目的地に設定し、スピードを上げる。

今回のクルマは231psの穏やかな仕様とはいえ、車重が1940kgあっても活発に走る。0-100km/h加速を7.0秒でこなすが、体感はそれ以上に速い。シフトチェンジを介さないことも理由だろう。

すこぶる上品なホットハッチのようでもある。海岸線へ沿うような鋭いカーブでは、ボディロールも最小限。ステアリングホイールへは殆ど感触が伝わってこないものの、反応は正確でタイトだ。

酷く濡れた路面でなければ、タイヤを空転させることなく確実にパワーが展開される。トルクステアもほぼ生じず、前輪駆動のネガは感取されない。

映画のように壮大な景観へ感覚を集中させる

メインランド島の北部にある、トフトのフェリー乗り場へ到着。途中、スロムヴォーの製油所からオレンジ色の炎が立ち上がる様子が見えた。

再び乗船。イェル海峡は20分で渡りきれる。2艘のフェリーが、終日往復しているという。デッキに出て、無数の小島と、ブルーとホワイト、グレーとイエローが複雑に重なる空を眺める。この地域ならではの色彩だろう。

ポールスター2(英国仕様)
ポールスター2(英国仕様)

イェル島はメインランド島以上に静か。野生動物の楽園といえそうだ。すれ違うクルマは殆どなく、2頭の羊が道路の真ん中で佇んでいる。路面はとても滑らかで緩やか。自然とスピードも出る。

ハイパワーな内燃エンジンが欲しいとは感じない。BEVの平和な質感と、ドライバーへの要求が少ないポールスターの雰囲気が、映画のように壮大な景観へ感覚を集中させる。運転への意識が薄まっていく。

島を北上し、ブルーマル湾に面した場所は行き止まりだった。無骨なシフターをスライドさせ、方向転換のためにバックする。ポールスター2の後方視界は限定的。オプションの360度カメラが死角を補う。

少し南へ戻ったカリボーの町には、2021年に設置された無料の充電器が商用桟橋のたもとにある。ここの電気は、潮の満ち引きで発電されている。800m沖に4基の潮力タービンが沈められている。

カリボー周辺に電力を供給するだけでなく、BEVの充電も可能な余力がある。その事実を知ると、地球のエネルギーをわけてもらったようで感慨深い。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • リチャード・ウェバー

    Richard Webber

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

目的地は北の果て ポールスター2でシェトランド諸島へ 上品なEVホットハッチの前後関係

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