アイドリングストップって何? メリットとデメリット エンジン寿命に影響はあるのか

公開 : 2022.12.27 18:05

エンジンを摩耗から守る方法とは

こうした摩耗を防ぐ方法は大きく分けて2つある。まず、自己潤滑性の高いベアリング材を開発するという方法。フェデラル・モーグル社は、酸化鉄の粒子(錆)をポリマーでコーティングした「アイロックス(Irox)」という新素材を開発したが、その滑らかさは驚くべきものだ。アイロックスの摩擦係数は従来のアルミ製ベアリングよりも50%低く、エンジンの寿命を延ばすことができるのである。

2つ目は、潤滑油の改良である。近年のエンジンオイルには、化学物質からなる添加剤が含まれている。英国のミラーズ・オイル社の技術責任者であるマーティン・マン氏は、このケミカルの配合が非常に重要と述べている。

エンジンの停止・始動が多い都市部では負担も大きくなる。
エンジンの停止・始動が多い都市部では負担も大きくなる。

ミラーズ・オイル社は2006年に低摩擦オイルの研究を開始した。「摩擦装置でテストしたところ、ピストンとライナーなどの一般的な部品間の摺動摩擦を50%低減できることがわかりました」とマン氏。

低摩擦オイルは一般的に、熱、パワーロス、燃料消費量、摩耗を低減させる。同社の開発した「ナノドライブ」技術は先進的なもので、微細なボールベアリングのような小さなナノ粒子が高圧下で剥離し、ポリマーの「フレーク」がエンジン表面に付着するのだ。

現時点では、同社の高級レーシングオイルにのみ使用されているが、アイドリングストップにおいても再始動時の摩耗を減らすことができる。

低摩擦ベアリングと高度な潤滑技術が普及すれば、理論的にはアイドリングストップによるエンジン消耗を克服できるはずだ。しかし、これらの技術はまだ比較的新しく、大量導入や低コスト化をいつ、どれほど実現できるかはわからない。

また、エンジンとは別に、バッテリーへの負担も大きくなる。バッテリーは、エンジン停止中も車載コンピューターやオーディオ、ライトなどに電力を消費し、エンジン始動時にはセルを回さなければならない。充電速度と耐久性が求められるため、アイドリングストップ搭載車向けの専用バッテリーが用意されているが、非常に厳しい環境に置かれることは否めない。

本当に燃料の節約につながる?

アイドリングストップの目的の1つに、燃費の改善がある。結論から言うと、その効果は確かにある。渋滞や信号待ちなど、エンジンを止めて停車している状況では燃料を消費しない。

ただ、具体的にどれくらい改善できるかはしばしば議論の的となる。大方、運転スタイル(走り方)によって左右されてしまう。エンジンが停止している時間が長いほど多くの燃料を節約できるが、例えばエンジンが冷えている場合など、完全に暖まる(暖機)までアイドリングストップが作動しないこともある。

燃費改善や排出ガス低減など確かなメリットはあるものの、その効果は運転スタイル次第である。
燃費改善や排出ガス低減など確かなメリットはあるものの、その効果は運転スタイル次第である。

バッテリーの残量が一定レベルを下回ったり、シートベルトを外したり、エアコンをつけたりすると、エンジンが停止しないこともある。さらに、停止時間が短いと、節約できる燃料よりもエンジン始動に使う燃料の方が多くなってしまう可能性もある。

車種や車両コンディションによっても作動条件が異なるので、一概にどれくらいの燃料節約につながるかは明言できない。数秒程度しか停車する見込みがないなら、アイドリングストップ機能はオフにしておくほうが賢明だろう。

アイドリングストップ機能は、賢く使えば節約につながるが、デメリットも少なくない。

身も蓋もない話だが、ドライバーよりも自動車メーカー側のメリットの方が大きいかもしれない。昨今、自動車メーカーにはCO2(二酸化炭素)など排気ガスの排出量と燃費について厳しい規制が課せられている。これに違反すると多額の罰金が生じる可能性があるため、少なくとも “カタログ上は” 数値を改善できるアイドリングストップ機能が欠かせなくなっている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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