1954年のクラス優勝マシンを再現 ブリストル450ル・マン 異彩のツインフィン 後編
公開 : 2023.01.21 07:06
異彩を放つスタイリングのレーシングマシン、450ル・マン。可能な限り充実に再現された1台を、英国編集部がご紹介します。
もくじ
ー当時の関係者との印象的な出会い
ー雷鳴のような轟音を放つル・マン仕様の直6
ー偉業の大きさを物語る異彩を放つボディ
ー番外編:1954年のル・マン・クラス優勝
ーミュルザンヌ・ストレートで240km/hに迫る
ーレース撤退とともに破壊された450ル・マン
当時の関係者との印象的な出会い
ブリストル450ル・マンの窓は、曲面を描くアクリル製。フロントガラスは、MGB用から再成形された。「ボディラインに合わせてカットしています。内側から取り付けるため、作業はとてもトリッキーでした。2枚も割っています」
「ブリストル450は、公道用のツーリングカーとして認証を得ていました。ウインカーも付いていたんです。ル・マンでは使用されませんでしたけどね」
「シンプルなメーターパネルに合わせて、小さなウインカー灯でも充分でした。でも、ブリストル403風の矢印にしたいと考えたんです」。オーナーのオリヴィエ・ボレ氏が振り返る。
再生の過程では、当時のレーシングドライバー、ジャック・フェアマン氏との対面以外にも印象的な出来事があった。「ダッシュボードのメダルは、1973年にブリストル・カーズを引き継だトニー・クルックさんの所有品でした」
「2014年にトニーさんが亡くなり、友人だったミッチェルの父、ピーターさんへ譲られています。その彼も、450ル・マンの作業へ情熱的に関わってくれました。毎日ワークショップへ顔を出すほど」
ボレが続ける。「しかし、2021年にピーターさんも他界。その生前に、メダルをクルマに使って欲しいと言葉を残したのです」
ご存命だった、当時のレーシングドライバーとの再会も果たした。「ミッキー・ポープルさんが補欠ドライバーでした。そこで復元プロジェクトにお招きしたんです。特別なマシンを目にして、感動された様子でした」
雷鳴のような轟音を放つル・マン仕様の直6
果たして、完成した450ル・マンのお披露目は、2021年にグッドウッド・サーキットで開催されたベントレー・ミーティング。来場者はあまり関心を示さなかったようだが、初走行は大成功を収めた。
8月には、シルバーストーンとカッスルクームでのイベントにも参加。その秋にフランスで開催されたイベント、レトロモービルでは話題を集めたそうだ。
「2022年7月のル・マン・クラシックにも参加しました。その頃のドライバーが体験した走りを、同じサーキットで味わうことを楽しみにしていましたから」。ボレが笑う。
いま筆者がいるのは、フランス・パリの南部に位置する、オートドロム・ドゥ・リナ・モンレリ。1953年10月に、450ル・マンがスピード記録に向けて走行した場所だ。とても貴重な機会としかいいようがない。
狭いコクピットに身体を押し込む。湾曲したグラスエリアに覆われ、水槽の中にいる気分になる。ル・マン仕様の直列6気筒エンジンは、目覚めると同時に雷鳴のような轟音を放つ。68年前のマシンとは思えないほど勇ましい。
歴史的なサーキットへ、ゆっくり歩みを進める。数周走って水温を高め、徐々にペースを速めていく。4速へシフトアップすると、ダッシュボードの小さなスイッチでオーバードライブを選べる。
速度の上昇とともに、ステアリングホイールが軽くなる。正確性は変わらない。バンクコーナーを攻め込むが、ミリ単位でラインを調整できる。とても忠実だ。