オフローダーの民主化 ジープ・チェロキー ランドローバー・レンジローバー 英米の革新者 後編
公開 : 2023.01.28 07:06 更新 : 2024.07.23 11:02
唯一無二のフィーリングへ浸れる
とはいえ、クラシック・レンジへ乗る度に、得もいわれぬ独特なドライビング体験に筆者は惹かれてしまう。エアコンは備わらないが、ヒーターは好調で冬場でもすぐに車内は暖かくなる。大きなサイドウインドウを少し開く。
巨大なガラスエリアに四方を覆われ、コンバーチブルに乗っているような感覚にも近い。グレートブリテン島を吹く風が車内に流れ込み、外界との距離がさらに縮まる。
滑らかに回転するV8エンジンが、ドライバーの足もとで脈動する。サスペンションが路面をしなやかに受け流し、コマンドポジションの姿勢で自信を持って運転できる。レンジローバーは、古くても的を射たオフローダーだ。
操縦性には、あえて触れたくなるような特長がない。現実として、気にするドライバーも少ないだろう。だが、唯一無二のフィーリングへ浸ることができる。
それでも、オンロードでの印象は、チェロキーの方が遥かに優れていることは否定できない事実だ。オフロードでの走破性では逆転するとしても。
急いで家に帰りたい時、当時のオフローダーとしてチェロキーは最高のモデルに数えることができた。ケータハム・セブンを理想的なスポーツカーとしてガレージに収めていれば、残りはチェロキーで満たすことも可能だっただろう。
自動車の進化での重要な意味
特に英国人は、レンジローバーが世界を変えたオフローダーだと考えがち。だが実際は、XJ型のチェロキーの方が、自動車の進化の過程で重要な意味を持っていたと思う。より革新的なモデルといえた。
モノコック構造のユニボディを採用し、1990年代に訪れたSUVブームの幕を開いた。それは現代にまで続いている。乗用車と四輪駆動車を、見事に融合させていた。
生産数を見ると、高級志向へシフトしたクラシック・レンジが1台誕生する毎に、チェロキーは9台がラインオフしていた。影響力の差は明らかだろう。
近年、XJ型ジープ・チェロキーはクラシックカーとして再び注目を集め始めている。上級感と日常性、オンロード性能とオフロード性能を両立させた多能ぶりは、現代でも充分通用するといえる。もう少し早く英国へ上陸していれば、とも考えてしまう。
他方、英国人としては初代ランドローバー・レンジローバーへ強い共感を抱かずにはいられない。他を圧倒するオフロード性能を活かせる場所は限られ、過剰なほどかもしれないが、クルマとしての特別感や実用性を際立てていることも事実だ。
ドライビング体験は他に例がない。筆者にとっては、より長時間味わいたいオフローダーだといえる。
協力:マイケル・デビッド・カーズ社、キングスレー・カーズ社