待望のMのワゴン BMW M3 コンペティション・ツーリング 500Lの荷室に510ps 前編

公開 : 2023.01.26 08:25

本物のMモデルのステーションワゴンが登場。創業50周年を記念した特別な仕上がりを、英国編集部が確かめました。

創業50周年を記念する特別なMモデル

フェラーリを創業したエンツォ・フェラーリ氏は、「お客様が常に正しいとは限らない」。といった内容の言葉を残している。その考え方は、確かに間違っていなかった。これほどのブランドを築き上げたのだから。

自動車メーカーにとって、先見性や率直性といった指向は重要といえる。時代の変化を捉えつつ、それには迎合はしない。世論に屈せず、正しいと考えることを実行するべきだろう。それでも、時には周囲に流される方が良い場合もある。

BMW M3 コンペティション・ツーリング(英国仕様)
BMW M3 コンペティション・ツーリング(英国仕様)

BMW M社は創業50周年を自ら記念し、特別なモデルを生み出そうと考えた。その1台がM4 CSLクーペだった。軽さを追求したハードコアなM4で、これまで2度しか使われてこなかった、特別な「CSL」の3文字が与えられていた。

過去を振り返ると、初代は1972年のホモロゲーション・モデル、E9型の3.0 CSL。その次が、2003年にリリースされたE46型M3のCSLだ。いずれも、羨望のクラシックカーとして高値で取り引きされている。

ただしBMW Mにとって、軽量なM4 CSLを生み出すことは、さほど困難な目標ではなかったはず。比較的短時間で、実りある成果が得られたといえる。

ボディカラーの選択肢は制限され、リアシートは省かれていても、英国価格は12万8820ポンド(約2061万円)もした。生産数は1000台で、適正な環境の整ったガレージを有する人へ向けたコレクターズアイテムだった。熱烈なMファンのための。

量産化されてこなかったツーリングのM3

そしてもう1台、50周年をお祝いするのにふさわしいモデルが控えていた。アイデアとしてはM4 CSLより特別だが、普段使いとの親和性は今までになく高い。そう、遂に、われわれが望んできたM3 ツーリングが誕生した。

ここで改めて、M3とツーリングという関係を確認してみよう。BMW Mは、なぜ今まで1度も高性能なDセグメントのステーションワゴンを提供してこなかったのだろう。メルセデスAMGアウディへ伍するように。

BMW M3 コンペティション・ツーリング(英国仕様)
BMW M3 コンペティション・ツーリング(英国仕様)

2000年代初頭には、E46型3シリーズのプラットフォームを展開し、M3 ツーリングを密かに試作していた。しかし、量産化されなかった。その事実は2016年まで明かされることもなかった。恐らく、発売されていれば小さくない人気を得たはずだ。

一方、C 63 エステートとRS4 アバントは、高性能サルーンの身体能力とステーションワゴンの実用性を融合し、一定の支持を集めてきた。他者とは異なる、過度に主張しないようなモデルを嗜好するドライバーにとって、確かな選択肢として成長してきた。

もっとも、近年の派手なボディキットに4本出しマフラー、カーボンファイバー製バケットシートなどは、かなりのオシの強さだけれど。ランボルギーニから部品を借りてきたようにすら思える。

BMWの場合、アルピナのB3やD3がその一翼を担ってきたという事実はある。だが、M3を動的に補完するモデルともいえ、ブランドの認知度もそこまで高くはない。

市場はM3のツーリングを待ち望んでいた。BMW Mは、やっと重い腰を上げたようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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