別次元の価値観 オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン 6年のレストアで再生 後編

公開 : 2023.02.11 07:06  更新 : 2023.09.21 08:29

税金を安く抑える目的で生まれた、ウッドボディのステーションワゴン。貴重な現存車両の1台を、英国編集部がご紹介します。

6年の月日をかけた見事なレストア

今回ご登場願った、オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマンは、1953年8月にロンドンで販売されているが、最初のオーナーから20年後までの詳細は不明。1974年にグレートブリテン島の南端、フォークストーンに住む人物が買い取っている。

しかし、当初はレストアするつもりだったが、廃屋に放置されたようだ。NYE 631のナンバーを付け、沢山のスペアパーツと一緒に。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)

1995年、隣町のアシュフォードに住むデビッド・バンクス氏がクルマの存在を知り救出。6年の月日をかけて、見事なレストアを施した。シャシーからボディを降ろし、ウッドフレームも徹底的に仕立て直したという。

公道へ戻ったA70 ヘレフォード・カントリーマンは、2001年からの10年間をデビッドとともにした。その後、ステーションワゴンを中心に収集する、ジェームズ・ハル氏へ売却。500台以上といわれた彼のコレクションに加わった。

2014年にジェームズはコレクションの処分を決め、ジャガーランドローバー(JLR)社へ売却するが、関心を引いた100台を除いて手元には残ったらしい。そして数年後、残りのコレクションはオークションへ出品されることになった。

そこには、A70 ヘレフォード・カントリーマンも含まれていた。自走できなかったが状態は良好で、グレートブリテン島の中部、ブロムスグローブの町に住む現オーナー、ブライアン・ボクソール氏が購入している。

ログハウスのような温かみがある車内

「エンジンは掛からず、ブレーキは固着していました」。と、ブライアンが振り返る。燃料系と点火系にも手を加え、タイヤは新調。2020年9月から3か月をかけて整備し、車検を受け、2020年12月に路上へ復帰した。

購入当時、NYE 631のA70 ヘレフォード・カントリーマンは、現存する唯一の個体ではないかと彼は考えていたという。だが、他にも残っているようだ。

オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)
オースチンA70 ヘレフォード・カントリーマン(1951〜1954年/英国仕様)

「残存数は極めて少ないですね。7年間に3モデル合計で約2900台が作られていますが、農場や工場の実用車として酷使されていましたから。ニスやオイルで木材をケアしないと、すぐに腐ってしまいますし」。ブライアンが説明する。

可愛らしいい見た目のA70 ヘレフォード・カントリーマンは、全長が4242mm、全幅が1766mmあり、想像するよりサイズは大きい。A70 ヘレフォード・サルーンからは、戦後の緊縮財政の薄暗い雰囲気を感じるものの、ウッディはポップで明るい。

美しいテールゲートは、中央で分かれる観音開き。車内もニスで塗られたウッドで満たされ、山袖に立つログハウスのような温かみがある。天井は木が格子状に組まれており、丁寧な仕事ぶりを楽しめる。

スチールが露出した、ボディカラーと同色のダッシュボードと、好ましいコントラストを生んでいる。フロントガラス越しに広がるボンネットでは、Aのカタチをモチーフにした、フライングAと呼ばれるマスコットが行く先を示す。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    トニー・ベイカー

    Tony Baker

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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