磨かれたコーナリングスピード アルピーヌA110 Rへ試乗 エンジンはSと同じ300ps 後編
公開 : 2023.02.03 08:26
サーキット仕様として、ダウンフォースとグリップ力を増したA110のR。英国編集部がその仕上がりを確かめました。
期待通りの繊細さや柔軟さが残る
アルピーヌA110 Rで公道へ出てみると、過去のA110シリーズと比較して、車内が若干うるさいことに気がつく。とはいえ耳障りなほどではなく、我慢が必要ということはない。乗り心地もハードだが、落ち着きに欠けるほどでもない。
ステアリングホイールの反応は従来以上に鋭さを増し、手のひらへ伝わる感触は豊か。レシオは適度にクイックで、重み付けも丁度いいと感じた。
新しいエグゾーストシステムからは、ドライで荒々しいサウンドが放たれる。従来にはない破裂音も時々混じるが、日常的に運転するような回転数であればおとなしい。こもったノイズが響き、悩まされることもない。
A110 Rは、ロータス・エリーゼをシリアスに仕立てた、エキシージのようなアルピーヌではない。動的特性には、期待通りの繊細さや柔軟さが残されている。
一般道をハイペースで運転すれば、引き上げられたグリップレベルや、引き締められた姿勢制御、限界領域付近での高い安定性などを実感できる。ただし、300psの最高出力に変わりはなく、突き詰めていけるほどではない。
今回はスペイン・マドリード郊外にあるハラマ・サーキットでの走行も許されたが、懐が深く近づきやすいA110本来の特性は不変。その変化を確認するのに、筆者は2周も走る必要はなかった。
能力を増したシャシーに負けているパワー
ブレーキングゾーンからコーナーの出口まで、従来以上に高速で処理できることは間違いない。少しペースを落とせば、コーナー入口でテールを降り出すことも自在。そのままドリフトへ持ち込み、痛快にストレート目掛けて加速できる。稚拙かもしれないが。
A110 Rは、これまでにはなかった新たな個性を獲得している。遥かに高価でパワフルなサーキット前提マシンに引けを取らないほど、高速での周回が可能だ。
従来のA110を所有し、サーキット走行での次のレベルを求めているようなドライバーには、さらなるコーナリング・スピードで応えてくれる。格上のスポーツモデルを追い回すことも可能だろう。
しかし、1.8L 4気筒ターボエンジンのパワーが、能力を増したシャシーに負けている。グリップ力は凄まじく、コーナリングスピードの上昇分に慣れてしまうと、それ以上の精彩な体験までは得にくいかもしれない。
恐らく新しい「R」は、多くのドライバーが求めていたであろう、高次元のA110だと思う。それと同時に、筆者が初めてパワー不足だと感じたA110でもある。シャシーとパワートレインの絶妙なバランスが生んでいた、甘美な仕上がりは霞んだように思えた。
低速コーナーからのフル加速で、リミテッドスリップ・デフの不在が惜しまれた、初めてのA110でもある。ギア比をショート化すれば、少し違っていたかもしれない。特に4速までの加速の勢いは、シャシーが許容する能力には届いていない印象だった。