フォード F1復帰にまつわる物語 波乱に満ちた歴史と伝説のDFVエンジン

公開 : 2023.02.07 06:05

フォードがレッドブルと提携し、F1に復帰することになりました。フォードは以前、「DFV」と呼ばれるV8エンジンを供給し、通算155勝を挙げるなど歴史に名を刻みました。F1とフォードにまつわる物語を紹介します。

F1に舞い戻ったブルーオーバル

30年近く前の1990年代半ば、ジャッキー・スチュワート卿はフォードを説得し、新しいF1チーム「スチュワート・グランプリ」の創設で資金提供を得ることに成功した。

英国のミルトン・キーンズの工業団地を拠点とするスチュワート・グランプリは、わずか3シーズンだけ存在し、1勝(1999年ニュルブルクリンク、ジョニー・ハーバート)を挙げた後にフォードに売却された。そう、そもそもはフォードがお金を出して作ったチームだ。それをフォードに売ったのだから、スチュワート卿は巧妙である。

フォードは過去にコスワースと提携し、V8エンジンを供給していた。
フォードは過去にコスワースと提携し、V8エンジンを供給していた。

その後、チームはジャガー・レーシングへと姿を変え、「The Cat is Back(猫が戻ってきた)」と大々的に宣伝された。しかし、フォードはF1参入を検討してきたすべての自動車メーカーに対して、安易に手を出してはいけないという顕著な例を示すことになる。偉大な名前と誇り高き伝統を持つジャガー・レーシングは、2000年から2004年にかけて、ろくな成績を残せなかったのだ。フォードがこの時期に下した最善の決断は、カフェイン入りの甘いエナジードリンクを売るオーストリアの野心家、ディートリッヒ・マテシッツにチームを売却することだった。

その5年後、レッドブル・レーシングは同じミルトン・キーンズを拠点に、スチュワート卿のタータンチェックを着た従業員とともにセバスチャン・ベッテルを擁して4連覇を達成した。

そして今、フォードはF1に再び参入することを発表した。数十年前に自分たちがお金を出して創設したのとまったく同じチームのパートナーとして、である。このようなことはありえるのだろうか。

適切なコミットメントと距離感

両者の契約は、2026年シーズンから始まり、少なくとも2030年まで続くものだが、いわゆる「Netflix効果」の究極の現れと言える。Netflixで配信されたドキュメンタリー番組『Formula 1 : 栄光のグランプリ』は、数十年にわたって欧州的なレースとは無縁だった米国でのF1人気を高めた第一要因とされている。2023年シーズンには、オースティン、マイアミ、ラスベガスと3回のグランプリが米国で開催されることになり……そして今回、フォードもこの餌に食らいついたのだ。

2017年に長年の最高権威であるバーニー・エクレストンを退陣させた米メディア大手リバティ・メディアにとっては、F1買収の正当性を完全に証明された形だ。フォードがF1に戻ってきたことは、とてつもなく大きな事件と言わざるを得ない。

紆余曲折を経ての提携。両者は慎重に距離を置いている。
紆余曲折を経ての提携。両者は慎重に距離を置いている。

しかし、その実はどうなのだろうか。2026年からはレッドブルとポルシェが組む可能性があったし、そうするべきだったのだが、結局のところチーム代表のクリスチャン・ホーナーは自身の任期を危険に晒すこの契約を土壇場で破棄した。ポルシェは、従順なパートナーという役割を受け入れるつもりはなかったし、ホーナーもそれをわかっていた。それに対して、フォードはもっと融通が利くかもしれない。フォードにはジャガー時代の二の舞を演じる気はないだろうから、参入はしても、首を深く突っ込むことはなさそうだ。

レッドブルはすでに投資をはじめ、ミルトン・キーンズに独自のパワートレイン部門を設立している。新しいF1エンジンの製造をフォードに依存することはないのだ。「2023年から、フォードとレッドブル・パワートレインは、2026年のシーズンに向けて、350kWの電気モーターと完全に持続可能な燃料を受け入れることができる新しい燃焼エンジンを含む、新しい技術レギュレーションの一部となるパワーユニット開発に取り組む」と、声明には慎重に記されている。

また、ホーナーの言葉から、さらに見えてくるものがある。「独立したエンジンメーカーとして、フォードのようなOEMの経験から恩恵を受けることができるのは、競争相手に対して有利に働くだろう」……つまり、現在アルファ・ロメオとザウバーの間に存在する “ステッカーのみのスポンサー契約” を超えるものなのだ。しかし、キーワードは「独立(independent)」だ。世界ラリー選手権のMスポーツと同様、レッドブルはフォードとは激しく、そして選択的に距離を置いている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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