次期フラッグシップ・クーペ ロールス・ロイス・スペクター 試作車へ試乗 BEVは副産物 前編

公開 : 2023.02.11 08:25

伝統銘柄初のBEVとなるスペクター。英国編集部がプロトタイプへ試乗し、次期2ドアクーペが目指す姿を体験しました。

最もラグジュアリーなクーペを作りたい

ロールス・ロイスであることが第一。電気自動車であることはその次です」。ロールス・ロイスの新しいクーペを開発する際、CEOのトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏が、担当する技術者へ伝えた言葉だ。

スペクターは、ロールス・ロイス最新のフラッグシップ・モデル。2ドアクーペで、バッテリーEV(BEV)だが、必ずしも電気をエネルギー源とする必要はなかった。

ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ
ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

2016年に生産を終えた、ロールス・ロイス・ファントム・クーペの後継モデルに据えられる。全長は5453mm、全幅が2080mm、全高が1559mmあり、ロールス・ロイス・レイスやドーンといった、従来の2ドアモデルよりひと回り大きい。

「ファントム・クーペは、最も特徴的なロールス・ロイスの1台として評価されていますが、とても珍しい存在です。恐らく数100台程度しか生産されていません。オーナーの方には大切に維持していただき、手放さないで欲しいですね・・」

「お客様は、あのようなクルマが戻ってくるなら素晴らしいとおっしゃいます。わたしたちは、BEVを作りたいとは考えていませんでした。最もラグジュアリーなクーペを作りたいと考えたのです」

「電動であることは副産物。V型12気筒エンジンの、次の段階に過ぎません」。ミュラー・エトヴェシュが丁寧に説明する。

60%の完成度でも量産へ移せそうな仕上がり

スペクターを筆者が目の当たりにしたのは、南アフリカの西ケープ州。試乗車として用意されていたプロトタイプは、既に量産車のような仕上がりにあった。

しかし、まだ40%の仕事が残っているという。オーダーした顧客へ納車が始まるのは、8か月後になるそうだ。

ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ
ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

AUTOCARを定期的にお読みいただいている方なら、2022年の春にスペクターの開発車両へ同乗したレポートをご記憶かもしれない。その時はスウェーデンの北極圏だった。開発初期の段階ながら、画期的なモデルが進行中であることを宣言するものといえた。

一転して、今回は南アフリカ。試乗を終えた印象を率直にお伝えすると、まだ60%の完成度だとは思えない走りだった。5%ほど手直しを加えて、量産へ移せそうにすら思えた。ロールス・ロイスとして、些細なスキも許されないのだろう。

「調査と挑発の連続です。スポーツ選手のように、変化の度合いは僅かかもしれません。大きな変革のために、細部の改良を重ねています。並外れた成果には、まだ多くの作業が必要です」。技術者を率いる、ミヒアル・アヨウビ氏が話す。

まさに極地が目指されているスペクターだが、基礎となる骨格は定評のある逸品が採用された。アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリーと同社が呼ぶ、独自開発のアルミニウム製スペースフレームをベースとしている。

第8世代のファントムで初採用されたもので、SUVのカリナンと4ドアサルーンのゴーストも用いている。アクティブ・アンチロールバーにアダプティブダンパー、エアサスペンション、後輪操舵システムなどのハードは、基本的に共有となる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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