次期フラッグシップ・クーペ ロールス・ロイス・スペクター 試作車へ試乗 BEVは副産物 後編

公開 : 2023.02.11 08:26

伝統銘柄初のBEVとなるスペクター。英国編集部がプロトタイプへ試乗し、次期2ドアクーペが目指す姿を体験しました。

空気抵抗を示すCd値は同社最小の0.25

ロールス・ロイス・スペクターのダッシュボードには、ワイドなタッチモニターが埋め込まれている。メーターパネルもモニター式だが、あえて主張することはない。BEVであることも、特には意識させない。

筆者がクルマを運転する時は、シートポジションはできるだけ低い位置に設定する。しかし、正確に操縦するべくボンネットの先端まで見えるようにするには、普段より高く調整する必要があった。それだけスペクターは大きい。

ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ
ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

フロントノーズでは、空力特性が改善された、新しい姿のスピリット・オブ・エクスタシーが舞っている。彼女も貢献し、存在感のあるボディにも関わらず、空気抵抗を示すCd値は0.25へ抑えられている。同社のモデルとして最小値だそうだ。

フロントシート側の空間は、外観から想像するほど広くはない。リムジンとは異なるタイトなクーペだから、これで正解なのだろう。内装は、通常の顧客が選ばないであろうブラックでコーディネートされ、それも視覚的なゆとりを削いでいた。

いわずもがな、狭いことはまったくない。大柄な体型でもゆったり過ごせるし、リアシートにも大人2名が快適に座れる空間がある。

フロントシートの背もたれには、BMWのようなシアター・スクリーンは用意されない。「お客様は、ご自宅に大きなスクリーンをお持ちです。スペクターはスクリーンのない部屋です」。とは、ロールス・ロイスの技術者、ミヒアル・アヨウビ氏の説明だ。

ロールス・ロイスらしく極めて静か

威風堂々としたスペクターは、無音でシステムが起動し、ほぼ無音で発進する。ロールス・ロイスのモデルらしく、桁違いに静かで落ち着いている。極めて洗練され穏やか。

同社CEOを務めるトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏は、傑作のV12エンジンを過去のものにするのかと、顧客に尋ねられたことがあったという。「V12はわれわれが誇るベストです。ですが、これ(BEV)が次のステップです」。と答えたそうだ。

ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ
ロールス・ロイス・スペクター・プロトタイプ

路上を進むスペクターは、確かに次のステップへ到達していた。実際のところ、ドライブトレインに革新的な内容はないかもしれない。V12エンジンの個性も失われた。しかし、同社として理想とする姿は内燃エンジン時代から近かったといえる。

その顕著な特徴が、極めて静かだということ。近年のBEVで最も静かだと感じた、BMW i7を凌駕する静寂さを得ている。最高の洗練度といって良いだろう。外界と完全に切り離されたような感覚にすら陥る。

ドライブモードには、余計なギミックは用意されていない。回生ブレーキの効きが強くなり、アクセルペダルだけで発進から停止までまかなえる、ワンペダルモードが有効になるBモードが備わるのみ。

非常に巧妙に調整されており、筆者は試乗中、殆どBモードのままにしていた。終始スムーズに、1枚のペダルで運転できた。

乗り心地は極めて快適。路面の凹凸は、基本的にないものにしてくれる。ホイールが23インチと大きく、ツギハギの多い都市部では若干のバタつきも感取されたが、まだ開発途中にある。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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