290万円以下のクラシック・スポーツ MGC トライアンフTR4 A 1960年代の2台
公開 : 2023.02.26 07:06
ドライバーの腕を試すような能力
TR4 Aのリア側には、小さなベンチシートが備えられ、子どもなら座ることができる。サリートップと呼ばれるソフトトップは、フレーム付きのMGCより開閉が簡単。アルファ・ロメオ・スパイダーのように、片手での開閉は難しいが。
TR4はリジッドアクスルだが、改良版のTR4 Aはセミトレーリングアーム式へアップグレードされている。直接比較しなければ違いを体感しにくいが、ドライバーの腕を試すような能力を秘めている。
ステアリング・フィールは自然。手のひらには、タイヤへの入力によるキックバックが伝わるものの、シャシー特性はニュートラル。コーナーでは、意欲的にラインを選べる。
セパレートシャシー構造が生むスカットルシェイクも、筆者は気にならなかった。トライアンフの個性として受け入れられる。
乗り心地はフラットで硬め。背骨に振動が伝わるほどではないものの、モノコック構造で遥かに剛性の高いMGCほどサスペンションは仕事をこなせない。気がつけば、大きな路面のくぼみは避けて運転していた。
ロングストローク型の4気筒エンジンは、ノイズが大きく荒っぽい。ハイリフトカムが組まれ、低速域でのトルクと引き換えに高回転域でのパワーを得ている。ドライバーの気持ちを掴むように。
4速MTには、2速から4速で選択できるオーバードライブが備わり、実際は7速のようにも楽しめる。どんな場面にも適したギア比が用意されている。
穏やかで洗練された雰囲気を放つMGC
MGCへ乗り換えると、6気筒らしい滑らかなエンジンの質感へ惹かれる。反応はおおらかで曖昧だ。重たいフロントノーズは、タイトコーナーで外側へ膨らもうとするが、アクセルペダルの加減でテールを振り回すことも不可能ではない。
ただし、大きなステアリングホイールのロックトゥロックは3.5回転とスロー。素早く腕を動かす必要がある。
5000rpmまでしか回らないが、不満ない加速には3500rpmもあれば充分。反応がタイトとはいえないものの、シルキーな味わいのまま、低速域まで粘り強く対応してくれる。ロングなギア比を補うように。
0-97km/h加速は10.0秒。1967年当時の動力性能としては、不足ないものといえた。
2台とも握りやすい位置へシフトレバーが伸び、変速時にギアの回転数を合わせるシンクロメッシュは丈夫。リズミカルに次のギアを選べる。
スタイリングは甲乙つけがたい。TR4 Aのクリクリしたヘッドライトが心へ響く一方で、MGCのクリーンなボディラインも捨てがたい。ボンネットの膨らみや、MGBより大きなホイールも悪くない。
イタリア車やドイツ車が高価だった時代に、MGCは巡って来たチャンスを活かせなかった。少なくない小さな弱点は、修正されることもなかった。追い打ちをかけるように、優れた日産フェアレディZ、ダットサン240Zが日本から北米へやってきた。
エンジンの印象は6気筒の方がベター。それを踏まえて、穏やかで洗練された雰囲気を放つMGCへ筆者は傾いてしまう。弱者を応援したくなる気持ちも加わって。
協力:サイモン・ナトール氏、ケン・ブリットン氏