25台のショーファードリブン シトロエンDS 21 マジェスティ 高貴なコーチビルド 後編

公開 : 2023.03.11 07:06

魔法のようにロンドンの路面の不正を均す

DS マジェスティの走りには、正直なところ特に注目すべきところはない。美しさを保ったまま進むだけで満足だ。

それでも、ハイドロニューマチックからのカチカチというノイズや、呼吸するようなささやき、西ロンドンの路面の不正を均すしなやかさには、触れないわけにはいかないだろう。まるで女神がかけた魔法のように。

シトロエンDS 21 マジェスティ(1969年/欧州仕様)
シトロエンDS 21 マジェスティ(1969年/欧州仕様)

シフトレバーを左に倒しながらスターターを回し、エンジンを始動する。穏やかにアクセルペダルを傾けると、セミ・オートマティックで1速から2速へ、クラッチペダルを踏まずにシフトアップされる。

始動から10分ほどは特に、右足を優しく動かす必要がある。調子良く機能するように調整することも難しいが、修理には相当な費用が必要になるはずだ。

もっとも、急いで走れるわけではない。慣れてくると、シングルスポーク・ステアリングホイールの奥、上部に突き出た細いレバーを意識ぜずに倒せる。指を伸ばせば届く位置にある。

ブレーキペダルは、マッシュルームのように丸いボタン。そっと重みを加え、優しく速度を落とす。

対象的に、2175cc 4気筒エンジンは至って凡常。それでも、現代の都市交通にも順応できるほど粘り強く回り、ストレスは小さい。おおらかに走る姿へ、ロンドンっ子の熱い視線が向けられる。

本国でも認知度の低いシャプロンのDS

クラッシックカーに関心を持つ人なら、シトロエンDSの認知度は高いだろう。とはいえ、アンリ・シャプロン社を知っている人は殆どいないと思う。このDS 21が、極めて特別だという事実も。

フランス製のエレガントなボディをまとう、セミ・コーチビルドのシトロエンは本国でも広くは知られていない。欧州の外では、目にする機会すら殆どないはず。ドーバー海峡を挟んだ、グレートブリテン島でも。

シトロエンDS 21 マジェスティ(1969年/欧州仕様)
シトロエンDS 21 マジェスティ(1969年/欧州仕様)

シトロエンDS 21 マジェスティの価値を理解する人は、情熱的に維持し手放すことは滅多にない。DDクラシック社が前オーナーから引き受けた1台も、この記事が読まれる頃には次のオーナーが決まっていることだろう。

協力:DDクラシック社

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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