25台のショーファードリブン シトロエンDS 21 マジェスティ 高貴なコーチビルド 後編
公開 : 2023.03.11 07:06
魔法のようにロンドンの路面の不正を均す
DS マジェスティの走りには、正直なところ特に注目すべきところはない。美しさを保ったまま進むだけで満足だ。
それでも、ハイドロニューマチックからのカチカチというノイズや、呼吸するようなささやき、西ロンドンの路面の不正を均すしなやかさには、触れないわけにはいかないだろう。まるで女神がかけた魔法のように。
シフトレバーを左に倒しながらスターターを回し、エンジンを始動する。穏やかにアクセルペダルを傾けると、セミ・オートマティックで1速から2速へ、クラッチペダルを踏まずにシフトアップされる。
始動から10分ほどは特に、右足を優しく動かす必要がある。調子良く機能するように調整することも難しいが、修理には相当な費用が必要になるはずだ。
もっとも、急いで走れるわけではない。慣れてくると、シングルスポーク・ステアリングホイールの奥、上部に突き出た細いレバーを意識ぜずに倒せる。指を伸ばせば届く位置にある。
ブレーキペダルは、マッシュルームのように丸いボタン。そっと重みを加え、優しく速度を落とす。
対象的に、2175cc 4気筒エンジンは至って凡常。それでも、現代の都市交通にも順応できるほど粘り強く回り、ストレスは小さい。おおらかに走る姿へ、ロンドンっ子の熱い視線が向けられる。
本国でも認知度の低いシャプロンのDS
クラッシックカーに関心を持つ人なら、シトロエンDSの認知度は高いだろう。とはいえ、アンリ・シャプロン社を知っている人は殆どいないと思う。このDS 21が、極めて特別だという事実も。
フランス製のエレガントなボディをまとう、セミ・コーチビルドのシトロエンは本国でも広くは知られていない。欧州の外では、目にする機会すら殆どないはず。ドーバー海峡を挟んだ、グレートブリテン島でも。
シトロエンDS 21 マジェスティの価値を理解する人は、情熱的に維持し手放すことは滅多にない。DDクラシック社が前オーナーから引き受けた1台も、この記事が読まれる頃には次のオーナーが決まっていることだろう。
協力:DDクラシック社