GT40の勇姿を重ねて デ・トマソ・パンテーラ アメリカンV8の清楚なプレL 前編
公開 : 2023.03.19 07:05
イタリア生まれのシャシーにアメリカ製V8
1970年には、フォードがデ・トマソ・グループの株式の80%を取得。グループ内にあったコーチビルダーのギア社とヴィニャーレ社が傘下へ収まる一方で、デ・トマソのトップにはアレハンドロが残った。
アイアコッカの指揮のもと、新しいグランドツアラーはリンカーン・マーキュリー・ディーラーを通じて北米で販売されることが決定。それ以外の市場では、デ・トマソが自由に流通できるという条件が組まれた。
かくして、イタリア生まれのシャシーとボディにアメリカ製エンジンが載った、国をまたいだパンテーラが誕生した。このコラボレーションの核をなしていたのは、351cu.in、5763ccの「ハイ・アウトプット」V8エンジンといえるだろう。
オリジナルは、ボス・マスタング用に開発されたフォード・クリーブランド・ユニットの派生版。オイルショックと排気ガス規制が自動車業界を襲う直前、最後の奔放なスモールブロックだ。
同時期のイタリアン・ミドシップと一線を画す特徴といえ、強い個性を生んでいる強心臓でもある。回転域を問わず、放たれるサウンドは紛うことなきアメリカンV8。アイドリング状態から、ドロドロと近づく人の腹部を震わせる。地鳴りのように。
V8エンジンの充足感 ステアリングは正確
発進させても、V8エンジンの主張は続く。低回転域からトルクがみなぎり扱いやすい。初期のパンテーラは運転しにくいという評判があり、初めは恐る恐るアクセルペダルを傾けていたが、想像以上に手懐けやすい。
ステアリングホイールは丁度いい重み付けで回せ、シャシーは懐が深く、操れるという自信が湧いてくる。予想よりも機敏に身をこなし、運転席からの視界は後方以外なら良好。同時期のスーパーカーより幅も狭く、一般道でも扱いにくさは感じにくい。
タイトなコーナーを結ぶ、ストレートでの加速は最高。調子に乗っていると、アンダーステアで気持ちを正されるが。濡れた路面でアクセルペダルを踏み込むと、低いギアではタイヤが耐えきれない。
ステアリングの反応は正確。適切な侵入速度へ減速すれば、正確にラインを辿れる。ストレートが見え、右足へ力を込めると、野獣の唸り声のような轟音が後方から放たれる。V8エンジンの能力を解き放つという、充足感に浸れる。
1速が横に飛び出た、ドッグレッグ・パターンを持つZF社製のMTは、シフトレバーの感触がタイトで滑らか。スパスパと積極的なシフトアップを許容してくれる。
普段使いしやすそうなフレンドリーな雰囲気を、ストロークが長く、重たいクラッチペダルが濁している。もっとも、エンジンは太いトルクで粘り強いため、3速に入れたまま市街地の交通へ対応できるけれど。
この続きは後編にて。