屈指の強烈公道マシン アストン マーティン・ヴァルキリーへ試乗 NA V12 1156psのHV 後編

公開 : 2023.03.09 08:26

レッドブルとの協働で8年が費やされた、1156psのナンバー付きハイパーカー。英国編集部が能力に迫りました。

ドライバーの判断力的を狂わせる加速

バーレーン・インターナショナル・サーキットで初試乗となった、アストン マーティン・ヴァルキリー。最初のスティントは激しい勢いに圧倒され、シフトライトが点灯する前にシフトアップを繰り返した。

余りの荒々しさで、レブリミットまで引っ張ることができないのだ。唯一レッドゾーンまで迫れたのは、長いメインストレートのみ。6.5L V型12気筒エンジンは鼓膜を痛めそうな音量でノイズを放ち、これも抑制心を与える。

アストン マーティン・ヴァルキリー(欧州仕様)
アストン マーティン・ヴァルキリー(欧州仕様)

加えて、ストレートエンドまで加速し続けることは、ドライバーの判断力的にも簡単ではない。瞬間的に速度が上昇するため、スピード感を正確に掴むことが難しいのだ。つまり、コーナー手前のブレーキングポイントも読めなくなってしまう。

ブレーキは、巨大なカーボンセラミック・ディスク。制動力も凄まじく、初めは恥ずかしいほどで前でスピードが落ちきってしまった。

試乗車のブレーキペダルには、踏み始めに若干の無感触状態が感取された。ハードブレーキングを繰り返すと、最終的な制動力は低下していないようだが、減速の勢いがごく僅かに弱まるような感覚もあった。

もっとも、筆者がステアリングホイールを握る前に、別のドライバーによって数スティント走り込んでいたことを考えれば納得できる。耐久性に間違いはない。

タイヤは公道用パイロットスポーツ・カップ2

少し驚かされたのが、ラジエーター・クーラントの温度が危険な域へ上昇すると、V12エンジンのパワーへ制限が入るという制御。保護のため、自動的にレッドゾーンの回転数が絞られるそうだ。

半周ほど低い回転域を保って走行すると、タコメーターのレッドゾーンは本来の位置へ戻った。ピットレーンでアストン マーティンの技術者に確認すると、気温の高い中東の環境に苦慮していると話していた。

アストン マーティン・ヴァルキリー(欧州仕様)
アストン マーティン・ヴァルキリー(欧州仕様)

最初のスティントは、ヴァルキリーの甚大な動力性能に順応するだけで精一杯。コーナーは、ストレートでの加速体験に向けた休息時間のようなものだった。

コスワースの技術者によれば、エンジンはリビルドまでに8万kmは耐えられるという。そこまでオーナーが走り込むとは想像しにくいが。ERSボタンが有効なのは、低い速度域。メインストレートの後半で押しても、加速力に大きな違いは生じないようだ。

しばしの休憩を挟み、2回目のスティント。シャシーの能力に迫ろうという気合で望む。

横方向のグリップ力は、ヴァルキリーで異次元とは感じられない数少ない部分。公道走行が可能な、ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を履いているためだ。オプションで、より積極的なパイロットスポーツ・カップ2 Rも選べるという。

グリップ力は高いものの、スリックタイヤを履くサーキットマシンほどではない。旋回性は鋭いものの、タイトコーナーではライン維持のため、トラクション・コントロールが介入していた様子からも理解できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マイク・ダフ

    Mike Duff

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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