ドライバーズカーとしての可能性 フォード・レンジャー・ラプターへ試乗 V6ツインターボで292ps
公開 : 2023.03.28 08:25
厳しい排出ガス規制へ対応した292ps
高められた速度域を前提に、コイルスプリングは適度に硬くなっている。それでも充分にしなやかで、過酷な悪路にも対応する長いサスペンション・トラベルを叶えている。
電子制御のトラクション・コントロールも有能。思わず怯んでしまう急勾配にも、呆気にとられるほど簡単に対処してみせた。
もちろん、フォードらしい手頃な価格の小柄なドライバーズカーとは一線を画す。ラリーも楽しめる、フォーカスやフィエスタを置き換えるようなモデルではない。
3.0L V6ツインターボを搭載していても、エキサイティングなオンロードモデルにもなるとは期待しない方がいい。加えて英国仕様では、厳しい排出ガス規制へ対応させるため最高出力が292psへ制限されている。欧州以外の市場では400馬力近いのだが。
フルスロットルを与えると、レンジャー・ラプターは豪快なサウンドを放つ。ところが、実際の加速感はそのボリュームに見合っていない。マッスルカー風にダッシュはしない。
10速ATも、システム任せの状態では印象がいまひとつ。加速時には、不必要にシフトダウンしたがる傾向があるようだ。マニュアルモードを選べば、ドライバーが望んだギアへ素早く繋いでくれるが。
もっとも、広くない道路環境を考えれば、これ以上のエネルギッシュさはいらないかもしれない。5m超えの全長だけでなく全幅は2028mmあるため、平均的な英国の一般道では、小型トラックのように慎重に運転する必要がある。
理想的な場所で本性を解き放ちたい
アダプティブダンパーはオンロードでも有能で、凹凸を見事になだめる。リジッドアクスルを備える一般的なピックアップトラックのように、細かい揺れが続くことはない。
初期の減衰力が漸進的で滑らかに立ち上がり、乗り心地は落ち着いていると表現していい。期待以上の処理能力だ。
ステアリングは、見た目から想像する以上に正確。適度な重み付けと感触が伴う。スポーツワゴンのようなシャシーバランスやグリップ力、軽快な反応などは得られないけれど。
直進安定性は、車高の低いモデルへ迫る。車内へ響くノイズは抑えられており、長めのギア比を活かし、高速道路のクルージングを2000rpm以下でこなせる。長距離の自動車旅行にも構えることなく使えるだろう。燃費は褒めにくいとしても。
ちなみに、新世代にもディーゼルターボは残された。ただし、こちらにはフロントデフからロック機能が省かれ、アダプティブダンパーも装備されない。走破性や操縦性で劣ると考えて良いだろう。
新しいレンジャー・ラプターは、サーキットへ焦点が向けられた高性能モデルのように、一般道では少し肩身が狭く感じられる。理想的な場所で本性を解き放ちたいと、クルマ自体が訴えているような感覚がある。