イタリアの「ジオラマ製作コンクール」 企画した人物、想像より深〜いカーガイでした

公開 : 2023.03.18 11:25  更新 : 2023.03.31 01:03

C.ロプレストという人物

コッラード・ロプレスト氏は1959年南部レッジョ・カラブリア生まれ。建築士の肩書こそもつが、それ以上に知られているのは、イタリアを代表する自動車コレクターとしてである。

2018年に「ザ・クラシックカー・トラスト」が発表した世界の主要自動車収集家100人ランキングでは、24位に挙げられている。

2014年、フィレンツェのシニョリア広場で開催されたコレクション企画展。1935年ランチア・アウレリアB52ヴィニャーレの前で、ロプレスト夫妻。
2014年、フィレンツェのシニョリア広場で開催されたコレクション企画展。1935年ランチア・アウレリアB52ヴィニャーレの前で、ロプレスト夫妻。    Akio Lorenzo OYA

18歳のときに手に入れたフィアット「バリッラ」で自動車に目覚め、今日までに所蔵車は100台を超える。収集にあたっては「イタリア製」「プロトタイプ」「ワンオフ」という、いわば三原則を貫いてきた。

コンコルソ・ヴィラ・デステの常連参加者で、2017年には「アルファ・ロメオジュリエッタSS」でベスト・オブ・ショーを獲得。ゲスト投票によるプライズ「コッパ・ドーロ・ヴィラ・デステ」では同コンクール史上初の4回受賞を果たしている。

屈指のカー・ガイが提案する楽しみ方

コレクターというと、持ち駒をトレードしながら巧みに良い車にステップアップしてゆく人物を想像しがちだ。

だが、2004年からロプレスト氏を知る筆者は、そうしたイメージとはまったく違う素顔を見てきた。

みずから車両を磨くロプレスト氏。2023年2月には自伝も出版された。
みずから車両を磨くロプレスト氏。2023年2月には自伝も出版された。    Akio Lorenzo OYA

ロプレスト氏は、実車以外にもイソッタ・フラスキーニや「ベルトーネ」など、かつてイタリアを代表しながら不幸な末路を辿った企業の設計図や資料を丹念に収集してきた。

彼はその理由をイタリアのメディアに「自動車以前に美術品を収集していたとき、完成作よりもスケッチのほうが、製作者の思考過程がわかるからだ」と述べている。

なぜ、広く評価が定まった自動車ではなく、コンセプトカーやワンオフに焦点を当てるのか?

筆者の質問に、以前彼は「私が収集した車をデザインしたり、手掛けた人々は(自動車愛好家には知られていても)一般人にはほぼ知られていません。しかし、彼らこそ誰もが知るイタリアのカロッツェリアを伝説にまで昇華させた人々なのです」と説明した。

国際コンクールに参加するだけではない。イタリアの小さな村興し的イベントにも、自動車の素晴らしさを伝えるべくコレクションを携えて出向く。パレード走行では世界に1台の車両であろうと惜しみなく走らせ、動く姿を人々に見てもらう。

ちなみにある年のヴィラ・デステで、来場者が少ない朝方、みずから車を磨くロプレスト氏を発見した。このレベルの収集家になると、雇ったスタッフやメカニックにそうした役をさせるのが一般的なだけに印象的な光景だった。

生粋のカー・ガイである。

ジオラマ・コンクールは、そうした彼が新たに提唱する、ひと味変わった自動車文化の楽しみ方なのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大矢アキオ

    Akio Lorenzo OYA

    在イタリアジャーナリスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア中部シエナ在住。今思えば最初に覚えたイタリア語は「ルーチェ」「カリーナ」「クオーレ」、フランス語は「シャルマン」と絶版車名ばかり。NHK語学テキストに長年執筆。NHK「ラジオ深夜便」にも出演中。「シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザインの軌跡」(三樹書房)をはじめ著書訳書多数。

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