スピリットは宿すのか アルファ・ロメオ・トナーレ アウディQ3 コンパクトSUV比較 後編

公開 : 2023.04.01 09:46

実力を発揮しにくい2つのパワートレイン

少なくとも、ステアリングの反応はアルファ・ロメオ的。反応がクイックで、特に切り始めには鋭さがある。カーブでのボディロールも巧みに抑え込まれている。

比較すると、Q3のステアリングはスローでヘビー。回頭性も意欲的とはいえず、ボディロールも小さくない。

アルファ・ロメオ・トナーレ PHEV Q4ヴェローチェ(欧州仕様)
アルファ・ロメオ・トナーレ PHEV Q4ヴェローチェ(欧州仕様)

ひとたびコーナーに飛び込めば、トナーレは輝き出す。しかし、ドライブモードをダイナミックに切り替えても、プラグイン・ハイブリッドのパワートレインが鋭く反応することはない。

駆動用モーターは、1.3L 4気筒ターボエンジンを積極的にアシストするようには感じられない。むしろ存在感が薄い。

トナーレの場合は、ガソリン・ターボエンジンはフロントアクスルを、駆動用モーターはリアアクスルを、それぞれ独立して動かす。一方のQ3 45 TFSIe Sラインでは、駆動用モーターがトランスミッションに内蔵され、協働して前輪を動かしている。

このレイアウトが影響してか、アクセルペダルの操作に対し、2つのパワートレインがチームワークを発揮させにくいのだろう。駆動用モーターのパワーを活かし、コーナーから鋭く立ち上がりたい場合、フロント側のエンジンも相応に頑張らせる必要がある。

トナーレを質感良く走らせたいなら、穏やかな速度域で駆動用モーターだけを働かせるのが1番。駆動用バッテリーの残量がある限り。

充分な商品力を備えるトナーレ

結果として、総合での最高出力が280psもあるトナーレながら、245psのQ3より速いとは実感しにくい。滑らかなパワートレインの制御により、後者の方が運転しやすく感じられ、速さや快適さでは印象が良いようだ。

Q3の1.4L 4気筒ガソリン・ターボエンジンはしっかり隔離され、負荷が掛かっても目立つノイズを車内には届かせない。1.3L 4気筒ターボの仕事ぶりを実感させる、トナーレとは異なる。1740kgの車重を感じさせない、安定した乗り心地も備えている。

オレンジのアウディQ3 45 TFSIe Sラインと、グリーンのアルファ・ロメオ・トナーレ PHEV Q4ヴェローチェ
オレンジのアウディQ3 45 TFSIe Sラインと、グリーンのアルファ・ロメオ・トナーレ PHEV Q4ヴェローチェ

新しいアルファ・ロメオの実力を、ドイツのライバルと対峙させた今回の比較。直接乗り比べてみると、走りではQ3が有利であることは否定できないだろう。総合力で届いていない。

とはいえ、トナーレはより長い駆動用バッテリーでの走行可能距離を叶えている。ブランドのスピリットを受け継いだ、キラリと光るコーナリングも味わえる。

少なくないターゲット層が、新しいトナーレを選ぶと思う。このエンブレムに惹かれたのなら、比較結果など些細なことだと片付ける人も多いはず。PHEVのコンパス 4xeがジープとして売れるように、トナーレにも商品力は充分ある。

本当のアルファ・ロメオとして、重要なポイントは抑えられていないかもしれない。アルフィスタの思いとは、別の方向にあるかもしれない。しかし、今後のブランドにとって重要な新モデルであることは間違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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