ジョン・サーティースが前オーナー BMW 503 カブリオレ 3台のみの右ハンドル 前編
公開 : 2023.04.02 07:05
技術的にも最高水準のクルマが目指された
BMWの上層部は、高品質なものを作れば、高価格でも一定数が売れると考えた。第二次大戦を終え、ブランド再建が急務でもあった。中価格帯に属するノイエクラッセの開発を先延ばしにしてでも、ドイツの高い製造品質を体現するモデルが必要だと唱えた。
多くの自動車メーカーは、投じることが可能なコストの限りで最高のクルマを生み出そうと務める。それでも503 カブリオレを間近で観察すると、技術者の腐心ぶりがつぶさに伝わってくる。
スタイリングを手掛けたのは、507と同じアルブレヒト・フォン・ゲルツ氏。アルミ製のボディパネルは、職人が手作業で成形したもの。銀行の金庫のように頑丈そうなヒンジがフェンダーの内側へ仕込まれ、長いドアを支えている。
ボンネットは油圧を利用して持ち上がる。15秒をかけて、音を立てずにピタリと閉まる。
サスペンションは、フロントがダブルウイッシュボーン式。ステアリングラックを介してキングピンが潤滑される、当時としては高度な技術も採用されていた。ドライバーがグリスアップする必要はなかった。
ステアリングラック自体は、ピニオン&セグメントと呼ばれる、ラック&ピニオンに似た方式を採用。マーケティングだけでなく、エンジニアリングとしても最高水準のクルマが目指されていたことは間違いない。
1992年にジョン・サーティースが購入
結果的に、多くの欧州人には高嶺の花になってしまったものの、恋に落ちる人もゼロではなかった。そのなかには、英国のレーシングドライバー、ジョン・サーティース氏も含まれていた。
1957年の彼は、まだF1ではなくバイク・レースで世界的に活躍していたが、スポーツカーにも関心は高かったのだろう。503と多くのコンポーネントを共有する2シーター・ロードスター、507のオーナーになっている。
ただし、その頃のサーティースは高価な507を購入する財力を持ち合わせていなかった。イタリアのバイクメーカー、MVアグスタが、500cc世界選手権での優勝プレゼントとして資金の一部を援助したという。
それ以来、彼はBMW 50シリーズを気に入り、この503 カブリオレを購入したのは後年の1992年。BEE46のナンバーのまま、記念の507と一緒にこの世を去るまで大切に状態を保った。
初代オーナーのビー博士はポルシェへ乗り換えるため、10年間の所有後に購入したディーラーへ売却。しばらくして売りに出されていたのを、サーティースが入手
している。
この続きは後編にて。