ジョン・サーティースが前オーナー BMW 503 カブリオレ 3台のみの右ハンドル 後編
公開 : 2023.04.02 07:06
元F1ドライバーが所有したBMW 503 カブリオレ。こだわりのチューニングが施された希少な1台を、英国編集部がご紹介します。
もくじ
ーサスペンションやシフトを独自に改良
ー洗練されたクロスプレーンの3.2L V8
ー圧縮比の上昇で507と同じ157ps
ー多くの人の記憶には残っていないBMW 503
ーBMW 503 カブリオレ(1956〜1959年/英国仕様)のスペック
サスペンションやシフトを独自に改良
F1のレーシングドライバーとして活躍した、ジョン・サーティース氏。1957年式BMW 503 カブリオレを購入した彼は、ダンパーを特注のコニ社製へ交換した。特別に鋳造された部品には、SURTEES(サーティース)と名前の刻印が残っている。
オリジナルのコラムシフトを改め、フロア・シフトレバー用のエクステンションも追加している。ちなみに、彼が所有していたBMW 507にも同じ改造が施されていた。
サスペンションには、独自に設計されたアンチロールバーも備わる。多くの50シリーズと同様に、フロントのドラムブレーキはバキュームアシスト付きのディスクへ、BMWによってアップグレードされている。
サーティースが503 カブリオレを愛した理由は、快適さとスポーティさを兼ね備えていたから。その長所は、現在でも確かめられる。製造品質は同時期のメルセデス・ベンツやベントレーへ並ぶが、ドライバー中心のBMWらしい設計が体現されている。
期待通り、路面の起伏はしなやかにいなすが、枕のようにソフトすぎることはない。細かな凹凸の存在をサスペンション・スプリングは伝えるものの、適度な硬さで、外界との隔離性は素晴らしい。
期待以上に機敏にコーナリングするのは、彼が改良を施したサスペンションのおかげだろう。車重は約1.5tあるが、ベントレーでは退屈に感じられる区間でも、ドライバーを満たしてくれる。快適でありながら。
洗練されたクロスプレーンの3.2L V8
エンジンは、通常ならドロドロと唸りを上げるであろうクロスプレーンのV型8気筒。アメリカ市場を見据えた設定といえる。しかし、他に例がないほど洗練されている。始動時のサウンドはとても控えめだ。
ブロックはアルミ製だが、バルブは従来的なプッシュロッドで動かされる。排気量は3169ccとアメリカ基準でいえば小さく、回転フィールは欧州車的。2800rpm以上回すと豊かなトルクが湧き出てきて、3速のままカーブが連続する区間を楽しめる。
息を呑むほど速いわけではないものの、レスポンシブで夢中になれる。高回転域になるとV8エンジンはメカノイズを高めるが、耳障りになることはない。
ボディサイズは現代基準でも小柄とはいえないものの、シャシーは意欲的なドライバーの気持ちを汲むように応える。特にフロント・サスペンションの落ち着きに感心する。シンプルなリジッドアクスルのリア側も、しっかり車重を受け止める。
オーバーエンジニアリングだと感じさせるのが、ボディ剛性の高さ。カブリオレでありながら、路面が乱れてもフロアや開口部が粗野に始動する様子はない。舗装状態が良くない英国の路面でも、ガシっとしたボディを感じられる。
完全に制御されているという安心感が湧いてくる。内装の豪華なトリムは、時折カタカタと鳴くけれど。