元に戻せる電動化キット エレクトロジェニック・ポルシェ911 964へ試乗 充足感は低くない 後編

公開 : 2023.03.30 08:26  更新 : 2023.03.30 08:43

英国のエレクトロジェニック社がBEV化キットを開発。駆動用モーターをリアに積んだ964を英国編集部が評価しました。

運転で得られる感覚的な充足感は高い

電気自動車へコンバージョンされた、エレクトロジェニックのポルシェ911 964。案の定、クラシックな空冷911ならではといえる、個性や魂といった側面は失われていた。それでも、運転が退屈なわけではない。

マニュアル・トランスミッションが存在しないことで、クルマとの一体感や操作している実感は薄まっている。セレクタースイッチをDに回し、アクセルペダルを踏むだけで勢いよく加速が始まる。

エレクトロジェニック・ポルシェ911 964(英国仕様)
エレクトロジェニック・ポルシェ911 964(英国仕様)

駆動用モーターは滑らかに回り、低回転域から不足ないパワーを生み出す。100km/h程度までの鋭さは、新しいツインモーター仕様のBEVに匹敵するだろう。それ以上の速度域になると、徐々にトルクが低下していく。

大多数のクラシック・ポルシェのオーナーは、エレクトロモッドによって運転しやすくなったと感じると思う。現実的に引き出せる速さも、上昇したと思えるはず。

そのかわり、オリジナルほどの聴覚的な喜びは得られない。手入れの行き届いた空冷ボクサー・ユニットが回転数を高める時に体感する、ドラマチックさはない。

ただし、駆動用モーターは無音ではない。エレクトロジェニック社は、あえてノイズを隠したり、人工的なエンジン音を重ねたりはしていない。電気モーターらしい唸りで、内燃エンジンと比べれば単調ながら、聴き応えがないわけではない。

運転で得られる感覚的な充足感は低くない。コミュニケーション力があって、活気に溢れていて、アナログ感がある。内燃エンジンが存在しなくても。

ステアリングや姿勢制御に明確な影響

小さな911のフロントには、約250kgの駆動用バッテリーが載っている。フロントアクスルに掛かる重量は小さくない。ステアリングホイールは重く、両腕には相応の筋力が求められる。

エレクトロジェニック社は、ステアリングコラムへ後付けできる電動パワーステアリング・キットを用意しており、試乗車にも装備されていた。それでも、アシストされていないかのように力が必要だった。

エレクトロジェニック・ポルシェ911 964(英国仕様)
エレクトロジェニック・ポルシェ911 964(英国仕様)

最近はクラシカルな見た目が人気で、デモ車両もワイドなフックス風ホイールを履くスタイルで仕上げられていた。この幅広いタイヤも、重さを増加させている原因の1つになっていると思う。

オリジナルから増えた120kgの車重は、そこまで大きな数字ではない。しかし、フロントが相対的に重くなったことで、タイトコーナーでグリップ力を探るような場面や、コーナーの出口で素早く修正舵を与えたい場合に、足かせになることは否めない。

写真でもご覧いただけるとおり、姿勢制御にも小さくない影響が出ている。ちなみに、スタビリティ・コントロールは備わらない。

コーナーを攻め込んでみた限り、オリジナルのシャシーが受け止めきれる重量の限界に近いように感じられた。ボディロールを制御しきれず、乗り心地も落ち着きを失う場面がある。とはいえ、日常的な速度域なら運転を楽しめるはず。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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