社運をかけた失敗作 お粗末なシティローバーと隠れた名車ストリートワイズ 誕生秘話

公開 : 2023.04.01 18:05

まずまずの高評価 仕上がりも良好

当時、ストリートワイズを評価した自動車評論家の中には、その可能性を見いだせない人もいたが、手前味噌ながらAUTOCAR英国編集部のスティーブ・クロプリー(現編集長)の眼は衰えていなかった。初試乗の後、彼はこう言った。

「ローバーは、標準的なローバー25のサスペンションを1インチ上げ、大きなホイールとタイヤを装着し、ノーズとグリルの樹脂成形品、ホイールアーチ、サイドラビングストリップ、そしてノーズとテールのストレーキを加えることで、『オールロード』に仕上げている」

ローバー・ストリートワイズ
ローバー・ストリートワイズ

「短いが、ルーフレールもある。インテリアでは、明快なダッシュボード、太いシフトノブ、サイドボルスターを惜しみなく施した格好良いシート、そして後部にはローバー25のベンチシートではなく個別のシートがある。このクルマを見せた4人の若いドライバーは、間違いなく気に入ってくれたので、ストリートワイズには見込みがありそうだ」

こうしたまずまずの見通しは数字に現れている。2003年に2688台、2004年に8182台(唯一、通年で販売)、2005年に1977台が販売された。欧州での相対的な成功を考えれば、ローバー25の「ジャッキアップ」の結果は許容範囲内と言えるだろう。欧州の中古車販売サイト「AutoScout24」を覗いてみると、今もそれなりの台数が売買されていることがわかる。

お手頃な価格設定 未来の名車?

ストリートワイズは2003年、1.4LのAシリーズ・ガソリンエンジンと2.0LのLシリーズ・ターボディーゼルを載せて発売されたが、2004年には最高出力110psの1.6Lガソリン(MT)と118psの1.8L(CVT)も登場し、ラインナップが強化された。発売当初のグレードは「ベーシック」、「S」、「SE」の3種類で、3ドアと5ドアが選択可能だった。

エントリーモデルの価格は、現在の貨幣価値で9295ポンド(約150万円)とお買い得だった。確かに、スチールホイール、3ドア、84psの1.4Lガソリンエンジンは我慢しなければならなかったが、2003年当時9000ポンド強で買えるものはそう多くはなかった。ベース仕様のシトロエンC3フォードフィエスタ、ミッドレンジのダイハツ・シリオンやフィアットプント、あるいはローバー25 1.4i Eなど、その仲間内でも非常にお買い得だった。

ローバー・ストリートワイズ
ローバー・ストリートワイズ

25を都会の戦士に変えることを任された自動車デザイナーのピーター・スティーブンス氏は、以前、ストリートワイズを未来のクラシックと評したことがある。オンライン記事へのコメントで、「走行距離が少なく、状態の良い、黒のストリートワイズを探すべきだ」と述べたのだ。2007年のことだった。それから16年、英国の道路には約600台が走っており、その他にもSORN(基本的に使用せず保管)として登録されているものがある。

また、MGローバーはストリートワイズ向けに豊富なアクセサリー製品群を発表し、「殺風景な都市環境において、あなたのステータスを高める方法」と称した。16インチから17インチのアロイへのアップグレード、ルーフクロスバーの追加、ランドローバー風のライトガード、フロントフォグランプ、サイドバー、フロントナッジバーの装着が可能であった。まるで、アウトドア用品店Mountain Warehouseのようにコーディネートすることができるのだ。

て残念なことに、MGローバーの破綻によってストリートワイズは早々に消滅してしまったが、中国市場ではMG 3 SWとして生き残った。会社を救うことはできなかったが、シティローバーとは比べものにならないくらい、本格的なシフトチェンジを実現した。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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