過小評価される1990年代の名車 ジャガーXJ220 ライバルより速いのに愛されなかったスーパーカー
公開 : 2023.04.02 18:05
今からおよそ30年前、ジャガーはXJ220というスーパーカーを発表しました。巨大なボディ、美しいシルエット、そしてライバルを凌ぐ速さを兼ね備えていました。時代に見放された名車の真の価値を探ります。
もくじ
ー評価の低さは不当か
ーひりひり伝わる危なっかしさ
ー喧騒の中で生まれた不運な猫
ーエンジン始動 蘇る栄光
ーピュアな走り 意外な日常性
ー高速で輝く にわかドライバーには乗れない
ー運命に踊らされた名車
ー技術仕様
評価の低さは不当か
30年以上前、ジャガーはXJ220という画期的なクルマを発表した。官能的なルックスに加え、ツインターボによる圧倒的なパフォーマンスを持つスーパーカーである。
しかし、登場するタイミングと運が悪かったことから、決して良い印象を持たれていないのもまた事実。だが、それは公正な評価と言えるのだろうか? AUTOCAR英国編集部のアンドリュー・フランケル記者が検証する。
ひりひり伝わる危なっかしさ
ジャガーXJ220を見るだけで、他のスポーツカーでは味わえないようなスリルを感じることができる。マクラーレンF1は控えめで目に入らないし、反対にフェラーリF40はスズメバチのような存在だ。ランボルギーニ・アヴェンタドールの方が視覚的には狂気を帯びているが、心に引っかかるフックの強さはジャガーが勝る。
その魅力は、衝撃的なまでに大きいボディに、キース・ヘルフェット氏のデザインが筆舌に尽くしがたい美しさを加えていることにある。
XJ220は、巨大なパワー、過去半世紀のアストン マーティンに劣らぬル・マンでの成功、そして驚異的な希少性を兼ね備えている。製造されたのはわずか283台で、絶滅危惧種であるフェラーリ288GTO(272台)よりもわずかに多い程度。
しかし、GTOと同じようにグループCカーのエンジンを積んでいるにもかかわらず、XJ220はこれまで数十年の間、世間から愛されず、作り手にとっては恥ずべき存在だった。
喧騒の中で生まれた不運な猫
今さら古傷をえぐるようなことはしたくないが、簡単に言うと、ジャガーは1988年のバーミンガム・モーターショーでXJ220のコンセプトを発表した(写真)。4カムV12エンジンと四輪駆動システムを搭載するため、必然的に巨大なものとなった。マーガレット・サッチャーが率いる強気経済の最後の狂騒の中で、世界中がこのクルマに熱狂した。
ジャガーは、トム・ウォーキンショー氏(1946-2010)に製作を依頼し、市販仕様を完成させた。構造用接着剤とリベットで接合されたアルミニウム製チューブに、TWRが開発し、IMSAとグループCレースでジャガーXJR-10を優勝に導いたエンジンを搭載する後輪駆動車だ。
350台の生産が決定し、予約金として5万ポンドを集めるのも難しいことではなかった。しかし、開発が進んで納車の準備が整う頃には、世界経済が大きく冷え込んでいた。予約した350人の中には、契約を破ろうとする投機家もいれば、新車の代金を支払う意思も手段もない人もいた。
売買契約に関する騒動は、最終的には法廷に持ち込まれるほど大きくなった。ジャガーは有利な判決を勝ち取ったが、泥沼の状況を脱することは出来なかった。
その頃、1台のクルマにこれだけの金額を費やす余裕のある人々の関心は、英サリー州のウォーキングという町に引き寄せられていた。そこではマクラーレンの小さなプロジェクトが具体化しつつあったのだ。