過小評価される1990年代の名車 ジャガーXJ220 ライバルより速いのに愛されなかったスーパーカー

公開 : 2023.04.02 18:05

エンジン始動 蘇る栄光

今となっては、そのような紆余曲折を気にしなくてもいい。英スタッフォードシャーのドン・ロー・レーシング社のガレージを開けると、2台のレースカー仕様と最高出力680psのXJ220 Sを含む14台のXJ220の姿に、文字通り息を呑むことだろう。代表のドン・ロー氏は「ミスターXJ220」として、世界中の誰よりも多くのXJ220を世話しているのだ。

今回は、彼が所有する9台のプリプロダクション・プロトタイプのうちの4台目を貸してくれることになった。この車両は、アンディ・ウォレス氏が343km/hで走らせるなど、タイヤ開発の原点となった1台で、その後数シーズンをレースカーとして過ごした後、標準のロードカー仕様に戻された。最高出力550ps、最大トルク65.8kg-mを発揮する。

ジャガーXJ220を数多く取り扱うドン・ロー・レーシング社
ジャガーXJ220を数多く取り扱うドン・ロー・レーシング社    AUTOCAR

湿っぽい朝日の下に引き出すと、公道で使うにはあまりにも突飛な存在に思えてくる。599GTBの全幅は2.0m弱だが、ジャガーはそれ以上だ。全長は11cm長く、全高は20cmも低い。まったくもって威圧的だ。

そして、運転席に座ってみる。フロントガラスはほとんど水平で、その先端はミニバン1台分くらい遠くにあるように見える。ドライビングポジションは非常に快適で、シートも素晴らしいものだが、どう見ても他のクルマの半分も走れそうにない。後方視界は狭いというより、ほとんどないに等しい。

しかし、今さら引き返すことはできない。キーを回し、ボタンを押し、V6の音を聞く。チェーンドライブのカムシャフト、ターボエンジン、怒りに満ちた醜い栄光。20年前の光景や音の記憶が、まるで先週のことのようによみがえる。

ピュアな走り 意外な日常性

小雨で湿った路面に、筆者はノーズを慎重に突き出す。XJ220はウェット路面に強いという評判があるが、ABSさえもない。完全にアナログなクルマなんだ。ドン氏の息子でレースドライバーであるジャスティン氏は、直線で270km/hで4速から5速へシフトチェンジしたとき、クルマが一回転したという。嬉しいことに、XJ220はAピラーまで破壊されてもフロントガラスが割れないほど丈夫なクルマでもある。

最初は幅が広く、動作が重く、面倒な感じがする。ステアリングからブレーキ、クラッチ、ギアシフトに至るまで、すべてが重い。乗り心地は硬いが、恐れていたようなひどいものではなかった。エンジンと巨大なタイヤのせいで車内の騒音レベルはかなり高いが、非文明的というわけではない。今日でも、欧州の風変わりな人たちは大陸を移動するツールとしてXJ220を使っているが、その理由がよくわかる。

ジャガーXJ220
ジャガーXJ220    AUTOCAR

1年おきに7000ドル(約110万円)の点検が必要だが、しっかり手入れをすれば非常に信頼性が高いそうだ。

今度は速く走らせなければならない。タイミングを見計らい、ホイールスピンを最小限に抑えるために3速を選択し、走り出す。2500rpmではまったく面白みがないが、3000rpmを超えると、飛ぶように回っていく。ビッグターボと燃料噴射は、現代のシステムに比べれば、加圧された給水缶のような大雑把なものだ。

そして、7200rpmまで絶え間なく上昇する。20年前、XJ220は0-97km/h加速3.6秒を達成したが、四輪駆動やトラクションコントロール、ローンチコントロール、パドル、ハイグリップタイヤなどは装備されていなかった。そのため、実際には3秒を切るポテンシャルを持っていることは間違いないだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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